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廃棄物を資源と捉えて循環させるサーキュラーエコノミー(循環型経済)が注目されている。気候変動や廃プラスチックによる海洋汚染問題などを解決しようと、建築分野での取り組みも始まった。SDGsやESG投資の存在感が高まるなか、次世代の環境配慮型素材は大きな市場に育つ可能性がある。

ザワつく材料図鑑 ❾

ボタニカルコンクリート

コンクリートがれきと廃木材を粉砕して混合し、水を加えて加熱しながら圧縮、成形してつくる新素材。樹種やその混合比率を変えることで、様々な表情を生み出せる。タイルや歩道用ブロックなどへの適用が見込まれている

 大量生産・大量消費から脱却し、従来は廃棄物とみなしていた「資源」を回収して再利用したり、これまで活用していなかった資源を効率的に使ったりするサーキュラーエコノミー(循環型経済)が、廃プラスチックによる海洋汚染問題などを背景に注目を集めている。

 大手コンサルティング会社のアクセンチュアは、サーキュラーエコノミーを世界中で実践して「無駄」を「富」に変えれば、2030年までに4兆5000億ドル(約500兆円)もの経済効果を生み出せると分析する。

 工事に伴い大量の廃棄物を排出する建設業界でも、サーキュラーエコノミーの実践に向けた取り組みが始まりつつある。

東京大学、バイオアパタイト
「がれき」だって立派な資源

 コンクリートのがれきと廃木材から、タイルや建設資材などを生み出す技術を東京大学生産技術研究所の酒井雄也講師とバイオアパタイト(滋賀県彦根市)が開発し、2月6日に実物を公開した〔写真1〕。

〔写真1〕材料はがれきと廃木材、水だけ
〔写真1〕材料はがれきと廃木材、水だけ
下の3枚のタイルがボタニカルコンクリート。材料はコンクリートがれきと廃木材、水だけだ。木材に含まれるリグニンが接着剤として働く(写真:東京大学生産技術研究所)
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 その名も「ボタニカルコンクリート」。コンクリートがれきの用途拡大や高付加価値化、植物性資源の活用を目指す。

 ボタニカルコンクリートは、コンクリートがれきと廃木材を粉砕して混合し、水を加えて加熱しながら圧縮、成形してつくる。加熱することで、木材の主成分である「リグニン」が溶け出し、接着剤のような働きをする。

 混合する樹種のリグニン含有率が高いほど、曲げ強度が高くなる傾向がある。最も強度が低い、竹を用いたボタニカルコンクリートでも、一般的な舗装用コンクリートの曲げ強度である5MPaの5倍以上だ〔図1〕。

〔図1〕曲げ強度は混ぜる樹種によって異なる
〔図1〕曲げ強度は混ぜる樹種によって異なる
ボタニカルコンクリートの曲げ強度(左軸)と、混合した樹種のリグニン含有率(右軸)。温度160℃、圧力50MPaで成形した。コンクリートと木材の質量比は1対2(資料:東京大学生産技術研究所)
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 コンクリートのリサイクルを研究している酒井講師が、卵殻と木材で成形体をつくる技術を持つバイオアパタイトを知り、がれきと廃木材への応用を考えたのが開発の始まりだ。

製造時にセメントが要らない

 ボタニカルコンクリートの事業化が進めば、廃棄物の削減やCO2排出量の削減につながる。酒井講師は、「廃棄物を回収してつくるので、材料費はかからない。製造時に必要なエネルギーは、一般的なリサイクルコンクリートの半分。さらに専用機械をつくれば、10分の1から20分の1に抑えられる計算だ」と話す。製造時に大量のCO2を発生するセメントを使わないため環境への負荷も小さい。

 コンクリートのがれきは年間約3500万t、廃木材は年間800万tを超える量が国内で発生しており、そのリサイクル方法が課題となっている。例えばコンクリートがれきのリサイクル率は約98%と高いものの、その大半が道路の路盤材料として埋め戻されているにすぎない。また、今後は道路の建設需要自体が減っていくとみられる。

タイルなどの実用化目指す

 建築・土木分野での事業化については、大野建設(神奈川県愛川町)が協力している〔写真2〕。

〔写真2〕建設会社と協力して用途を探る
〔写真2〕建設会社と協力して用途を探る
ボタニカルコンクリートについて発表した3者。中央が東京大学生産技術研究所の酒井雄也講師。右がバイオアパタイトの中村弘一社長、左が大野建設の大野治雄社長(写真:日経アーキテクチュア)
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 同社の大野治雄社長は、「仮設の杭やコンクリートの型枠に使えば、地中にそのまま残置できるのでは」と期待する。ボタニカルコンクリートは木材由来の成分で接着しているため、特定の木材腐朽菌を使って生分解できる可能性があるからだ。撤去する必要が生じたタイミングで菌を注入して分解すれば、環境負荷の低減が期待できる。

 酒井講師らは今後、分解速度をコントロールする研究などを進めるほか、3年ほどかけて歩道用ブロックや車止め、タイルなど小型のコンクリート製品の実用化を目指す。