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既存建物の断熱化をどう進めるか。社会的な省エネの要請に反し、設計者の経験は乏しいはずだ。その実践や啓発に注力する設計者集団「エネルギーまちづくり社」に、基本を解説してもらう。第1回は賃貸住戸を題材とする。

(写真:大城)
(写真:大城)
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 断熱性能の確保は寒冷地だけのテーマとは限らない。また、分譲のみならず賃貸のストックの快適さや省エネルギー性能も上げ、空き家(空き室)問題の解消に取り組みたい。そうした意識を持つ鹿児島市内のエネルギー供給会社「日本ガス」が、賃貸マンション(改修時・築37年)を対象に「断熱エコリノベーション」の実証実験プロジェクトを進めた。

 リノベーションの対象は、鉄筋コンクリート造のマンションの無断熱の住戸(2戸)。木造戸建てと比較し、断熱、気密、換気という設計・施工時のポイントとなる3要素のうち気密に関しては比較的クリアしやすい。また、今回、換気設備の特別な更新は行っていない。要は、新たな平面プラン(ライフスタイル)の提案〔図1〕に合わせ、「断熱」に集中して工事を行っている。

〔図1〕無断熱のマンション住戸をリノベーション
〔図1〕無断熱のマンション住戸をリノベーション
一般的な2DKの住戸のワンルーム化を図った。キッチン設備の取り換えやタイル張りだった浴室の改装なども実施した。洗面・浴室は分割して前室を捻出。北面の開口部では、既存窓と内窓の間に50cmの空きを設け、物干しスペースとして使えるようにした(資料・写真:大城)
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 筆者(内山・竹内)は、後述するエネルギーまちづくり社(東京都港区)として改修設計と温熱計算に携わった。施工は、鹿児島市内の大城が担当し、2戸のうち一方にはワークショップによるDIYを併用。断熱効果のデータ採取と分析や、社会的な問い掛けなどを含めて評価を受け、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」(主催:リノベーション協議会)の総合グランプリを受賞した。

断熱性能の目標値を見極める

 改修か新築かによらず、当然、住宅事業は入居者ありきで、断熱ありきで進めるものではない。その前提で、(1)断熱性能の目標値とコストのバランスを的確に見極める、(2)目見当(勘)に頼らず、設計と温熱計算はセットで進める、(3)プロセスをオープンにするなどで断熱の大切さや体感を伝える場を広げる──といった点を我々は常に念頭に置いている。

 設計側としては、まず外皮平均熱貫流率(UA値)や熱損失係数(Q値)の目標を見定める必要がある。本来、それぞれの水準によって提供される快適さを体感していれば、発注者に提示する際の説得力が増す。しかし、まだ十分には体感の機会が設けられていない。

 目下、我々は、「HEAT20」(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)による断熱性能推奨水準のG1、G2グレードを、ひとまずの基準としている〔図2〕。なお、より性能の高い「パッシブハウス基準」などが存在することは知っておきたい。

〔図2〕断熱グレードの比較(地域区分「7」の場合)
〔図2〕断熱グレードの比較(地域区分「7」の場合)
建物の立地(鹿児島市)を前提に、基準別の断熱仕様の目安を示した。HEAT20は「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」の推奨水準。UA値は建物全体の外皮平均熱貫流率(W/m2K)、Q値は熱損失係数(W/m2K)、C値はすきま係数(Wh/m2)。現状はUA値0.5を少し下回る程度を目指すのが現実的ではないか。今回、HEAT20のG2を温熱計算時の目標とし、トリプルガラス仕様の部分は内窓追加に置き換えている。注1:スタイロフォーム換算(資料:エネルギーまちづくり社)
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 鹿児島市の省エネ地域区分(国土交通省告示)は「7」。今回は、「冬場の無暖房の条件下で、室温(体感温度)がおおむね13℃を下回らない」G2グレードを目指すと決めた。G1グレード(同10℃)よりも一段高い目標となる。HEAT20による水準としてUA値は0.46W/m2K、Q値は1.6W/m2Kが求められる。