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時代に合わせて建物の価値を再生するリノベーション。そこでは従来、必ずしも断熱性能はテーマとされてこなかった。その潮目が変わりつつある。連載の最終回では、設計者に知ってほしい最近の実例のレビューを試みる。

築古の集合住宅の価値の維持が社会的な課題となっている。連載第1回で紹介した、鹿児島市内の賃貸マンションの断熱改修プロジェクトが「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」のグランプリを獲得したのは、リノベーション業界として環境性能の重視に向かい始めたメッセージだと受け止めている(写真:大城)
築古の集合住宅の価値の維持が社会的な課題となっている。連載第1回で紹介した、鹿児島市内の賃貸マンションの断熱改修プロジェクトが「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」のグランプリを獲得したのは、リノベーション業界として環境性能の重視に向かい始めたメッセージだと受け止めている(写真:大城)
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 「リノベーション」という言葉が誕生し、先駆的な設計者たちが2000年代前半から空きビル再生や用途転用(コンバージョン)を中心とする実践を始めて約20年がたつ。その長い間に、省エネルギー改修は必ずしもリノベーションプロジェクトにおける重要なテーマとはされてこなかった。

 従来、省エネ改修を売り物にする設計事務所や工務店が存在しなかったわけではない。しかし、一握りの先行例を除き、空間デザインで勝負しようとする設計者の多くは、環境性能の向上をむしろ邪魔な課題として遠ざけていたのではないか。実際にはストック活用や省エネ改修に取り組む場合も、自身のプロジェクトを説明する際に環境性能の話を強調しない風潮があったように見受ける。

 そうしたなか、空間デザインと環境性能の向上は二項対立的なものではないと理解し、着実に実績を積み上げる設計者が近年、目立ってきた。度重なる自然災害を経験するなかで特に若手世代の間では、むしろ不可欠な取り組みとして認識され始めているように感じる。

 空間デザインだけで差を付けるのは、もはや難しくなっている。改修計画全体のコストのバランスなどからすれば、耐震改修までが精いっぱいだという現実は、今のところあるだろう。しかし、顧客ニーズとして今後、資産価値を持続させる決め手の1つである環境性能の向上に目が向かうのは間違いない。

 断熱改修というのは、コストをかけた分だけ、居住性能のアップを確実に体感してもらうことができる手段だ。クオリティーの高い空間デザインと一体になった実践が知られるようになれば、普及に弾みがつくはずだ。建て主との間で理解を共有する手掛かりを得るため、断熱改修の可能性を感じさせる事例を以下に概観してみる。

●各事例のA1~A3は以下の質問に対応する:Q1.断熱改修に取り組む思い、きっかけは? Q2.断熱(や気密)性能のレベル設定は? Q3.設計、ビジネスにおける断熱改修の可能性は? ●各事例の概要は(1)所在地(2)構造・階数(3)延べ面積(4)改修設計者(5)同施工者(6)竣工年月