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 改正民法が直接影響するのは、4月以降に締結された契約を巡る建築紛争だ。施行直前に実施した今回の取材では、建築紛争を手掛ける5人の弁護士から話を聞いた。

 取材では、請負契約や売買契約における損害賠償請求の要件に「帰責性」が加わった点に注目する声が複数挙がった。売り主や請負人が「責任なし」となるのはどのような場合か、明確ではないためだ。

 施工者が負う従来の「瑕疵担保責任」は無過失責任とされてきただけに、判断が変われば消費者保護の後退ともなりかねない。

構造計算書偽造事件が再燃しないか
河合 敏男 弁護士 河合敏男法律事務所

(写真:日経アーキテクチュア)
(写真:日経アーキテクチュア)

 法解釈が定まっていないだけに、実務家として気を引き締めている。法学者の間でも、契約不適合発覚時の修補に代わる損害賠償請求について、追完請求後に修補不能や受注者の明確な拒絶がわかった後でなければ実施できないとする説、追完請求を飛ばしても損害賠償請求はできるとする説に分かれている。当面は両方実施するほかない。

 損害賠償請求に帰責性が必要となったことで、消費者側に不利益なケースがあり得る。懸念しているのは例aば構造計算書偽造事件が再び起こったようなケースだ。

 引き渡し後に重大な契約不適合が発覚したとしても、ユーザーと売買契約関係がある不動産会社は建物を引き渡されただけで、建築の専門家というわけではないので、自分たちに責任はないとの抗弁が出てくると予想される。建設会社すら「まさか、そんなはずはない」と思うような欠陥が発覚した場合、もちろん不動産会社にも分かりようがないからだ。責任追及の道が閉ざされることのないよう、慎重な判断が求められる。(談)

資産価値への期待は保護されるか
谷合 周三 弁護士 谷合周三法律事務所

(写真:日経アーキテクチュア)
(写真:日経アーキテクチュア)

 改正で新設された「追完請求」において、受注者側は修補方法のほか、代替方法を提案できることにもなった。建築紛争において消費者側に立つことが多い私としては、これによって紛争解決がより簡単で、安上がりな方へ流れやすくならないかと懸念している。

 設備機器や部品なら代替物への交換でも問題は少ないだろう。だが新築の木造住宅の基礎に、構造耐力上問題があるレベルのクラックが入っていた場合はどうなるか。これまでの紛争でも、「性能が回復するなら必要十分だ」と、見た目が悪くなる補修方法が採用され、消費者側に我慢を強いたケースがある。新築への期待が裏切られていないか。

 契約不適合に基づく損害賠償請求は受注者側が修補を明確に拒絶した後に行うもの、とする解釈がある。だが私は旧民法下と同様、修補(追完)請求も損害賠償請求も、建て主側が提訴時に自由に選択できるという立場を採る。損害賠償請求では受注者側が帰責事由を抗弁できることになったことで、消費者保護が後退しないことを望みたい。(談)