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 「新庁舎建設に向けて計画は順調に進んでいると思っていたが、開庁までのスケジュールに大幅な遅れが生じた」。熊本県宇土市の元松茂樹市長は嘆息する。

 2016年4月の熊本地震で、倒壊寸前の状態となった宇土市庁舎。災害時の防災拠点として活用するはずだった庁舎が使用不可となり、被災後の機能継続が課題となった〔写真1〕。その解決策として、免震構造を採用。東京五輪・パラリンピックの建設需要が過ぎた後に新庁舎の工事に着手できるように計画していた。

〔写真1〕新庁舎計画に大幅な遅れが発生
〔写真1〕新庁舎計画に大幅な遅れが発生
(写真:日経アーキテクチュア)
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(写真:宇土市)
(写真:宇土市)
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プレハブの仮庁舎での業務が続く熊本県宇土市。倒壊寸前となった旧庁舎を解体し、新庁舎建設の計画を進めていたが、計画に大幅な遅れが生じた

 18年3月に「新庁舎建設基本計画」を策定し、庁舎の再建に向けて基本設計や実施設計を進めていたが、実施設計が完了した直後の20年3月11日に想定外の事態が発生した。

実施設計完了後に設計変更

 宇土市新庁舎は免震デバイスとしてオイルダンパーを6基使用する計画で設計を進めていた。ところが、庁舎に使用する予定だった免震オイルダンパーを製造する日立オートモティブシステムズ(以下、日立AMS)が建物用オイルダンパーの製造事業から撤退することが判明したのだ。

 市は、新庁舎建設計画のコンストラクション・マネジメント業務を委託していた明豊ファシリティワークスから20年2月20日に、「日立AMSが事業から撤退するといった情報がある」と伝えられた。

 市は、新庁舎の設計を手掛ける久米設計九州支社に確認するように指示。久米設計九州支社からの問い合わせに日立AMSから回答があり、情報が確かだと分かったのは20年3月11日だった。

 久米設計九州支社は、日立AMSから連絡があった時点ではすでに実施設計を完了しており、市も20年4月の新庁舎建設工事の入札公告に向けて準備に取り掛かっていた。同社の担当者は、「19年9月ごろに、日立AMSに見積もりを出してもらい、オイルダンパーを調達できることを確認した上で、日立AMSの製品を盛り込んだ設計で確認申請を出していた。最初から調達が難しいと分かっていれば別の免震デバイスで検討できたのに」と憤る。

 日本免震構造協会によると、国内で建物用免震オイルダンパーを製造している主な企業は油圧機器大手KYBの子会社のカヤバシステムマシナリー、川金ホールディングス(以下、川金HD)、日立AMSの3社。カヤバシステムマシナリーと川金HDは18年に検査データの改ざんが発覚し、20年4月時点で新規受注を停止している。

 宇土市の元松市長は、「両社はいずれ新規受注を開始すると思うが、いつになるかは分からない。設計者と協議し、設計変更をせざるを得ないと判断した」と説明する〔図1〕。続けて元松市長は、「免震デバイスの変更によって、建物の柱の位置なども変更しなければならない可能性がある。設計変更に約4カ月は必要だろう」と説明した。

〔図1〕実施設計が完了した直後に設計変更
宇土市新庁舎の完成イメージ。久米設計九州支社と桜樹会・古川建築事務所(熊本市)が設計を手掛ける
宇土市新庁舎の完成イメージ。久米設計九州支社と桜樹会・古川建築事務所(熊本市)が設計を手掛ける
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新庁舎建設のスケジュールの変更前と変更後。2020年4月に免震デバイスの変更にかかる影響を調査し、7月までに設計変更を完了させる予定だ
新庁舎建設のスケジュールの変更前と変更後。2020年4月に免震デバイスの変更にかかる影響を調査し、7月までに設計変更を完了させる予定だ
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(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)