「ぴたりとはまって安堵」
地上工事で、最大の難所は屋根だった。大成建設の細澤治顧問は、「屋根が完成してぴたりとはまったときに最も安堵した」と話す。
屋根は全部で108スパンあり、屋根トラスは根本鉄骨の先端に、3つのユニットを接続した〔写真4〕。初めに3スパンを設計図面通りに緻密に立ち上げ、それを物差しとして順に隣のフレームを組み立てていく。
三角形のトラスは、高所での溶接作業減らすため、同社が1950年代に開発した「大成トラス」の技術を活用した。溝形の2本の上弦材と、H形の1本の下弦材から成る。トラス同士、円周方向の接合は、上弦材のウェブ面を溶接ではなく高力ボルトで緊結した。
屋根トラスには鉄と木のハイブリッド構造を採用し、検証を重ねた〔写真5〕。「観客が木を近くに感じられるかにこだわった」と、隈研吾氏は言う。
国家事業を背負う重圧や高揚感が、設計や施工に携わる人々を奮起させた面もあるだろう〔写真6〕。「国立競技場は私が経験した中で、最も設計・施工一貫の良さを発揮できた」と、大成建設設計本部の水谷太朗プリンシパルエンジニアは振り返る。