設計を担当したJV3社は、トップダウンではなくチームワークで国家事業を乗り越えた。同じ目標に向かいながら、各社が見たそれぞれの景色をトップが語った。
山内 隆司 大成建設代表取締役会長
短工期の成否を分けた設計の1年

国立競技場は2015年にプロポーザルで事業者が決まるまで相当な時間を費やした。発注者が一番心配したのが、五輪までに間に合うのかということだ。予定通りの工期とコストで終えられた時、正直ほっとした。
当社はザハ・ハディドさんの案から携わり、竹中工務店と施工の検討チームをつくっていた。アイデアはあっても、施工図面に至るまで1年はかかるだろうという状況だった。
白紙撤回の後、工期とコストを担保して再スタートした時に、私は「人海戦術はやめよう」と決めていた。なぜなら国内で同時期に様々な大規模再開発が目白押しだったからだ。
事業者決定から竣工まで約4年。私は設計者たちに、きついのを承知で「1年間で設計を全部終わらせて設計図書を納入してくれ」と言った。それがいかに至難の業であるかは分かっている。だが残り3年で工事に集中するには、設計段階で発注者や競技団体などからの要望を全て織り込み、着工したら待ったなしで進めなければならない。設計者は本当に大変だっただろう。
社会環境で変わる現場
国立競技場の整備事業を旧国立競技場と比べる声もあった。約36カ月の工期を要するため、「旧国立競技場と比べると工期が長いじゃないか」と言われたこともあった。
旧国立競技場を60年以上前に施工したのも当社だったが、今回とは全く社会環境が違う。あの頃は昼夜を問わず生コン車が走り、突貫工事をしても近隣住民は文句を言わなかった時代だ。「今の神宮で、午前1時にコンクリートを打てますか? 許されないでしょう」と私は説明した。
その時の社会環境で現場は変わる。それでも過去に当社がつくった実績、例えば国立競技場は、私たちが継続して再び完成させ、次につなぐことができた。その努力を後輩にも引き継いでもらいたい。(談)