設計や施工で、意思決定を促したり、手戻りをなくしたりするツールとしてBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は既に定着した感も強い。最近では、設計から施工への一貫利用にこだわらず、3次元の形態情報や属性データをうまく活用する事例も生まれている。国土交通省からBIM活用ガイドラインが示されたのを機に、「BIMデータ活用2.0」ともいうべき今後の流れを学び直しておこう。

BIM再入門
ワンモデルから部分使いまで 目的重視で選択
目次
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BIMデータのつなぎ役に脚光
国⼟交通省は2020年3月に、BIMの一貫活用のためのガイドラインを公開した。標準ワークフローを示し、建物のライフサイクル全体でのデータ管理の必要性を強調。新たに「ライフサイクルコンサルティング業務」を定義した。
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前例なき球場をワンモデルで実現
大林組×米HKS
1つのモデルに集約するばかりでなく、BIMの活用法が広がりを見せている。設計と施工の枠を超えて、BIMが持つ形態・属性情報をいかに使いこなすかがカギを握る。大型プロジェクトから小規模物件まで、特性に応じてBIMを有効利用した事例を追った。
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超高層の“難所”だけにBIM投入
日建設計×戸田建設・加藤組鉄工所・COLABO
旧ビル創建時に重視された先進性を、現代に引き継ぐ─。2019年7月に東京・京橋で竣工した「ミュージアムタワー京橋」では、発注者から求められた、このテーマの実現にBIMが力を発揮した。
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構造・施工との連携でカテナリーの屋根
竹中工務店×永瀬・谷垣
意匠設計者が空間や建物の形を検討し、構造設計者が構造上成り立つか、安全かを検証する─。基本計画で形が変わる度に繰り返すこの一連のフローを、プログラムを使って自動化することで手間を減らし、木構造の屋根がカテナリー(懸垂)曲線を描く無柱空間を実現した。
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データ連携のカギはコミュニケーション
BIMで変わる建物サービス
仮想空間に現実の都市の情報が保管され、3次元で見たり、情報を引き出したりできる——。大成建設は東京の西新宿や銀座を対象に、街の「デジタルツイン」を試作し、防災などへの活用法を模索してきた。
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数量確認が多い公共建築に活路
AIS総合設計
BIM活用にはコストがかかり、大規模プロジェクトでないとメリットがない―。そう考える中小規模の設計事務所は少なくないだろう。しかし、自社の設計スタイルに合わせてBIMを導入し、効果を上げている例もある。
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“ソフトBIM”で受注につなぐ
石橋徳川建築設計所
モデルからの図面出力や数量算出、パース作成といったBIMの利点を、BIM専用ソフトを新規導入せずに取り入れている事務所がある。石橋利彦氏と徳川宜子氏が共同主宰する石橋徳川建築設計所だ。小規模な建物の設計が多いため、BIM導入の効果があるか分からず、高価なソフトへの投資はハードルが高かった。
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設計BIMを育ててFMに反映
安井建築設計事務所
建物の設計から運用まで、BIMを通じて建物の情報を一貫利用するのが理想だ。しかし、施工BIMは維持管理で必要以上の情報量を持ち、連携につながりにくい。設計時のBIMデータを基に、施工時の設備データなどを取り込めば一貫利用につなげやすい。
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ライフサイクルコンサルの先駆け
八幡市×日建設計
京都府八幡市は、発注者主導でBIMを活用したFMシステムの構築を進めている。市は2017年に新庁舎整備の基本計画を策定し、23年5月の供用開始を目指している。FMシステム構築は、指名プロポーザルで選定された日建設計が担当する。
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“一気通貫時代”に備える
BIMデータを一気通貫で設計から施工につないで生産効率を高める―。製造業を見習ったBIM化は進展しなかったが、施工プロセスに特化することで大きく前進した。発注者のBIM活用ニーズが今後高まれば、設計プロセスにも一気に浸透する可能性がある。