1つのモデルに集約するばかりでなく、BIMの活用法が広がりを見せている。設計と施工の枠を超えて、BIMが持つ形態・属性情報をいかに使いこなすかがカギを握る。大型プロジェクトから小規模物件まで、特性に応じてBIMを有効利用した事例を追った。
北海道北広島市で4月13日、「ES CON FIELD(エス コン フィールド) HOKKAIDO」の起工式が開かれた。プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地となる新球場だ。
延べ面積は約10万m2。約3万5000人の観客を収容する。設計は、コンペで選ばれた大林組と米国の設計事務所HKSが手掛けた。施工は大林組が担当する。両社は、コンペ段階から一貫してBIMを導入。着工前に、そのまま施工に取り掛かれるレベルのモデルを完成させ、「BIM竣工」を済ませた〔図1〕。
大林組設計本部設計ソリューション部の一居康夫部長は、「『世界がまだ見ぬボールパークをつくる』というコンセプトに沿って、前例のない新しい試みを複数盛り込んでいる。実現のためには、BIMを活用した3次元でのシミュレーションが欠かせなかった」と話す。
BIMで3次元シミュレーション
代表的なのが、日本初となる開閉式屋根と天然芝の同時採用だ。光合成量から芝の生育を予測するシステムを用いて、BIMモデル上で検証。2次元的には壁に当たって影になってしまう光でも、3次元であれば、より緻密に評価できる。屋根の開閉による複雑な日照条件を考慮しながらシミュレーションを繰り返し、モックアップでの育成実験につなげた。
スタンドやコンコースの構成は、「海外のスタジアムでもなかなかない挑戦的な設計だ」(一居部長)。例えば3塁側には、球場に入った瞬間に視界が開ける吹き抜けのエントランスホールを設ける。その上部には「フライングカーペット」と呼ぶ、フィールド側に張り出したスタンドがある。自席にじっと座っていなくても、オープンなコンコースを回遊しながら楽しんでもらえる構成とした。
こうした新たな観戦体験を実現するには、安全性の確保や運営を見越した検証が不可欠だ〔図2〕。例えば、飛球経路のシミュレーション。現拠点の札幌ドームで記録していた約1万球のデータを、簡略化したBIMモデルに重ね合わせ、オープンなコンコースへの影響などを確認している。
人流シミュレーションでは、各イニングの表裏の切り替え時に売店やトイレがどの程度混雑するか、退場時の人の流れなどを3次元で可視化。この検証結果をにらみながら、階段やエスカレーターなどの有効な配置を検討した。避難安全性の確認にも活用している。