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空気調和・衛生工学会と日本建築学会は3月23日、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて緊急会長談話を発表した。原案を作成した空衛学会の田辺新一会長は、建築の専門家による情報発信の重要性を説く。

田辺 新一(たなべ しんいち)
田辺 新一(たなべ しんいち)
1958年生まれ。84年早稲田大学大学院博士前期課程修了。2001年に早稲田大学理工学部建築学科(当時)の教授に就任。建築設備技術者協会会長や日本建築学会副会長などを歴任し、18年から空気調和・衛生工学会の会長を務める(写真:本人提供)
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 「現代建築は機械換気で成り立っている。運用方法を早急に示す必要があると考え、緊急会長談話を発表した」。こう話すのは、空気調和・衛生工学会の田辺新一会長だ。

 空気調和・衛生工学会と日本建築学会が共同で、「新型コロナウイルス感染症制御における『換気』に関して」と題した談話を発表したのは3月23日。感染拡大防止に向けて社会が「換気」に注目するなか、正しい知識や運⽤⽅法を素早くまとめて世に示し、話題を呼んだ。田辺会長は「情報発信が早いほど、多くの人を助けられると考えた」と振り返る。

 緊急会長談話では、空気を循環させるだけのエアコンに換気効果がないことなど、一般の人が誤解しがちな知識を正した。また、機械換気で空気環境を制御している高層ビルなどでは、普段は省エネルギーを考慮して絞っている外気導入量を増やすことで効果を高められると解説した。

 両学会は3月30日にも換気に関するQ&A集を公開。さらに空衛学会は4月8日、建築の専門家に向けて建築設備の運用方法を解説するなど、精力的に情報発信を続けている。

「マイクロ飛沫」で換気に注目

 今や、新型コロナ対策の合言葉になった「3密(密集、密閉、密接)」。ライブハウスなどでクラスター(患者の集団)が発生したことなどを踏まえ、政府は3月9日以降、この言葉を繰り返し用いて警鐘を鳴らしてきた。3密の1つで避けるべきとされたのが「換気の悪い密閉空間」だ。

 新型コロナは当初、飛沫感染と接触感染が感染ルートと考えられていたが、空気中を漂う細かい飛沫の中でウイルスが一定程度、生存することが分かり、空気感染に近い“マイクロ飛沫”という感染経路を想定して対策を講じる必要が出てきた。その有力な手段が換気だった。

 ところが換気については、エアコンの効果に対する誤解や、換気方法を巡る混乱が広がり、学会などへの問い合わせが急増した。そこで田辺会長は3月20日ごろ、談話の原案を執筆。長年、共同研究をしてきた順天堂大学の堀賢教授の助言を踏まえ、日本建築学会の竹脇出会長の確認を経て23日に談話を発表した。

 田辺会長は「専門家には現時点で分かっている情報を、早く正確に伝える使命がある」と語る。会長の「緊急談話」という形を取ったのは、理事会の承認プロセスなどを経ずに素早く情報を出すためだった。