2枚の大判CLTを接合し、単独で高い剛性を持つV形の屋根を形成。両端を外壁で支えたV形の架構を6つ並べて無柱の大空間を実現した。構造的には、無限にV形屋根を並べていくことのできるCLT建築システムだ。
西方に望む那須連山のように山形の屋根が連なる建物が2019年秋に完成した。栃木県那須町の「砂川印刷新社屋」だ〔写真1〕。CLTパネルだけで組み立てた木造平屋で、延べ面積は約300m2。全面ガラス張りの間口は約12mある。途中で壁の位置をずらしているが、同じ間口のまま奥行き29mにわたって無柱の内部空間が続く〔写真2〕。
「国内で製造できる最大寸法のCLTを使い切る建築を考えた」。設計を手掛けたマウントフジアーキテクツスタジオ共同主宰の原田真宏氏はそう話す。幅3m、長さ12mのCLTを2枚使ったV形屋根を基本ユニットとし、6つのV形を並べて架けたのがこの建物だ。
「ある程度、高さのあるV形にすると剛性の高い“梁”として大スパンを飛ばせる。それぞれのV形を連結する必要はないので、ハイサイドライトを設けた」と原田氏〔写真3〕。
とはいえ、構造設計では工夫も必要だった。「谷部をしっかり接合すれば、単独の梁としての強度は出るが、V形に開いた両側が支持されないので、わずかに垂れようとする。それをどう抑えるかが難しいところだった」。構造設計を担当したKMC(東京都狛江市)代表の蒲池健氏はそう振り返る。
対策として、屋根CLTの厚さを150mmにして面剛性を高めた。ハイサイドライトがなく、V形を連続させるならば厚さ90mmで成り立つという。また、間口が大開口となる北面の屋根には全体に補強垂木を打ち、さらに面剛性を高めた。