社内新事業提案制度によって2017年度に立ち上がった三菱地所関連事業推進室のCLTユニット。グループ会社の英知を集め、CLTの利用拡大を狙う。まずは事業の目的と進捗状況を聞いた。
CLTをテーマに新規事業を提案した理由からお聞かせください。

伊藤 社内で提案した2016年には住宅業務企画部に在籍し、関連会社約15社を統括していました。マンションの建設は鉄筋コンクリート(RC)造がメインであり、13年ごろから工事費が高止まりしている状況が全社共通の問題としてありました。
その中でCLTの存在を知りました。RCと同じ体積なら、5分の1から6分の1の重量です。こうした特徴があれば、材料としてはまだ高いけれど工夫のしようはある。「将来的に利益を出せる可能性を持っている。そのための調査・開発をやらせてほしい」と提案しました。
躯体を軽くできるので、基礎が軽減され、トータルで工事費が下がる可能性がある。グループ会社には三菱地所設計やツーバイフォー住宅を手掛ける三菱地所ホーム、木材プレカットの三菱地所住宅加工センターなどがある。グループ内の資源で、一気通貫で対応できると考えました。
事業スタート時の体制は?
伊藤 当初は、マンション開発を担当したことのある三菱地所の4人に、三菱地所設計の2人が兼務という形で加わりました。後者は、海老澤渉が各プロジェクトを統括し、名倉良起が意匠を担当する格好です。今は5つ目のプロジェクトが進行中で、三菱地所設計の4人などグループ会社の兼務者は8人を数えます〔図1〕。
CLTを床と耐震壁に利用
最初に関わったのが仙台の集合住宅「PARK WOOD 高森」ですね。

伊藤 デベロッパーである以上、高層建築に挑戦しないと意味がない、と仙台市内の自社所有地で10階建て賃貸集合住宅に取り組みました。
海老澤 海外でCLTの高層集合住宅が見られるなか、地震や防耐火の規制も踏まえ、RC造に勝る方法を模索。鉄骨(S)造と木造のハイブリッド構造にたどり着きました〔写真1〕。林野庁や国土交通省の補助金を活用するには設計も実験も1年で終わらせる必要があるので、この分野に力を入れる竹中工務店と協働しました。
ここでは、床や耐震壁にCLTを活用する可能性、一般ユーザーに対して木を現しで使うことの有効性が見えてきました。併せて、CLTを構造材に使う際の増額幅、工場製作による施工性の良さも確認できました。
伊藤 高森の工事費は想定より高かったのです。この分、工事費を落とさないと事業ベースには乗らないことが分かったのが大きな収穫でした。
海老澤 この経験を生かしたのが事務所ビルの「PARK WOOD office iwamotocho」です。ここもS造とCLT床のハイブリッド構造で、CLTはツーバイ材の利用や鉄骨梁耐火被覆の改良などで高森よりコストダウンを図りました(事例 1参照)。
地方とのつながりも見せる
東京都心の仮設パビリオンでもCLTの活用実績が生まれています。
伊藤 都心部でCLTの利用が限定的なので、こんな使い方ができるということを伝えたかったのです。解体した後、CLTの生産地である岡山県真庭市に移設して恒久施設となる。地方とどうつながるのかを見せたいとも思いました(事例 2参照)。
海老澤 地方都市については、札幌で「大通西1丁目プロジェクト(仮称)」が進行中です。北海道や九州では超高層は限られるので、6階建てなら純木造、8階建てなら純木造は厳しいといった検証をしています。
10階建て以上ならば純木造で事業が成立しないのは、高森の検討を通して分かっていました。そこで、8層のRC造の上に3層分だけ純木造を載せた立面ハイブリッド構造を採用しています(事例 3参照)。