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テレワークの定着で人がまばらになったオフィスに対し、多くの企業が疑問を持ち始めた。こんなに面積が必要なのか、これからどんな使い方になるのか──。解約の動きが相次ぎ、東京都心の空室率が10%を超えるとの予測もある。オフィスを巡る足元の動きをリポートする。

(写真:クリップライン)
(写真:クリップライン)
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 目の前にあったのは、もぬけの殻になったオフィスだった。

 東京・田町。サービス産業の生産性改善サービスを手掛けるベンチャー、クリップライン(東京都港区)の遠藤倫生取締役は、眼前の光景にこう思った。

 誰も出社しないオフィスなんて、必要なのか──。

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発令翌日の2020年4月8日、同社は完全在宅勤務を開始。出社率は限りなくゼロに近づいた。遠藤取締役が出社したその日も、会社の指示通り誰も出社していなかった。

「もう500万円の価値はない」

 港区の一等地に180坪。約80人が働くこの空間に、同社は月額500万円の賃料を支払っていた。引っ越してきたのは1年半前。それまでの雑居ビルと比較して賃料は2.5倍に膨らんだ。それでも株主からの「好立地のオフィスは採用に効果がある」とのアドバイスで移転を決めた。

 ただし、遠藤取締役は「もうその価値はない」と踏んだ。「当然の発想だと思います。誰も来ないオフィスに500万円は払えませんから」

 完全在宅勤務を始めてすぐのこと。遠藤取締役は高橋勇人社長にこう切り出した。「このオフィス、解約しませんか」。高橋社長も考えは同じで、すぐに移転計画をまとめるよう指示を受けた。

 それから約10日後、同社はオフィスの解約を決定した。遠藤取締役が出社率などから試算した「今後、必要なオフィス面積」は、たった60坪。現状の3分の1にすぎなかったからだ。

 クリップラインだけではない。多くのベンチャー企業が同様の試算をし、解約を既に通知し始めている。