隣席と一定の距離をとる「ソーシャルディスタンス」を確保しながらオフィスを効率よく活用する方法として、席を自由に選べるフリーアドレスに改めて注目が集まっている。固定席では特定の部署の出社率が上がった際に隣同士の距離を確保するのが難しくなるが、フリーアドレスならこの問題を解消できるからだ。
4月にフリーアドレス導入
家庭用食用油大手のJ-オイルミルズは2020年4月上旬、本社オフィスを一部リニューアルし、本社管理部門を対象にフリーアドレスを導入した〔写真1〕。以前から計画していたもので、導入時期がコロナ禍と重なった。
同社は働き方改革を進めるため「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」による業務改善に取り組んでいる。ABWとは、業務内容=アクティビティーに応じて時間と場所を自由に選択できる働き方だ。社内の席を自由に選べるフリーアドレスを、ABWを実現する手法の1つと位置付ける。
新オフィスでは、4人掛けの執務席に2人が斜めに座る。ソーシャルディスタンスを確保するためだ。このテーブル席以外にも、ラウンジや窓側の席、ガラスで仕切られた個別ブースなどの多様な空間を設えて、その日の業務に合わせて席を選べる。「フリーアドレスを導入したことで、新型コロナへの対応がスムーズにできた」と総務・ガバナンス推進部長の中林明彦氏は語る。
同社は3月2日、原則在宅勤務に踏み切った。その後、国内の感染者は増え、4月7日に政府が東京都などに緊急事態宣言を発令する。「驚くほど社員がいない状況でスタートした。誰がどこに座るか、気にする必要もない。結果として、ABWが劇的に進んだ」(中林氏)
最も少ない時は、出社率が2割程度に減った。7月上旬時点では4~5割程度という。「在宅勤務は通勤時間がかからず、仕事に集中できるので効率が良いという声も聞かれる。ただ、家で仕事に集中できる環境が整っていないなら出社という選択肢も必要だ」(中林氏)。一人ひとりの働き方に合わせて、場所と時間を選べるABWが実践されている。