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 企業ブランディングなどを手掛けるイノベーションパートナーズ(東京都港区)は2020年4月2日、佐賀県に支社を開設した。賃貸ビルの一室ではない。嬉野温泉の旅館「和多屋別荘」の客室である〔写真1〕。

〔写真1〕老舗旅館の一室をオフィスに転用
〔写真1〕老舗旅館の一室をオフィスに転用
イノベーションパートナーズが嬉野支社として使用する老舗旅館「和多屋別荘」の客室。利用頻度が低かった客室を同社がリフォームして使う(写真:左上は和多屋別荘、右は日経アーキテクチュア)
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 新型コロナウイルスで旅館・ホテルは大打撃を受けた。特にインバウンドの落ち込みは激しく、需要回復には数年かかるとされる。空室が増えるなかで、客室をオフィスとして転用する動きが広がっている。

 イノベーションパートナーズは和多屋別荘の約55m2の客室を10年契約で借り受け、約300万円を掛けて内装をオフィス向けに変更した。畳をフローリングに張り替え、大きな執務机を新調。資料を保管する棚や仮眠室などをしつらえたほか、通信環境を整備し、本社とのWeb会議のために大型モニターを配置した。

 同社の社員は旅館の共用部を自由に使うことができる。温泉に何度も入れるほか、中庭やロビーで仕事をすることも可能だ。

 イノベーションパートナーズが旅館にサテライトオフィスを構える動きは、新型コロナ流行前から始まっていた。嬉野市とは地方創生プロジェクトなどでつながりがあり、これまでも観光や地産品の販売促進を手掛けてきた。20年3月には市と立地協定を締結。協定に基づき、現地雇用などの貢献と引き換えに、月額賃料70万円のうち半分を佐賀県が、4分の1を嬉野市が負担する。同社の支払いは残りの17万5000円だ。

 同社の本田晋一郎社長は「Webカメラでいつでもつながることができ、都内で一緒に働いているようだ」と実感を語る。

 和多屋別荘は新型コロナの影響で利用客が急減。3月の売上高は前年同月比で47%に、4月は同9%まで落ち込んだ。小原嘉元社長は5月、経営戦略を抜本的に練り直し、旅館と貸しオフィスを両輪で経営することを決めた。イノベーションパートナーズをサブリース(転貸)会社とする契約を結び、追加で5つの客室に5~10社の企業を呼び込む考えだ。