2018年の西日本豪雨、19年の東日本台風に続いて列島を襲った「7月豪雨」。気候変動の影響で激甚化の一途をたどる水害への備えは、建築の設計や街づくりにおいて、耐震や防耐火と並ぶ最重要テーマに浮上した。これまで土木分野に任せきりだった浸水対策を、いかに加速させるか。浸水した建物の被害分析や政策の動向、最新の設計事例などを基に検証する。

耐水建築
待ったなし、建築・都市の浸水対策
目次
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千寿園の悲劇が映す治水の限界
水害への備えを土木の河川行政に頼ってきた建築・都市分野。気候変動で激甚化する自然災害から市民の生命や財産を守るために、方向転換を余儀なくされている。九州を中心に浸水被害をもたらした「令和2年7月豪雨」は、建築界に重い課題を突き付けた。
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急激な水位上昇で住宅が水没
「午前5時ごろに起きた時は川の水が堤防を越える寸前だった」。熊本県人吉市下薩摩瀬町に住む福田康代さんの自宅は、氾濫した球磨川の目の前に立つ。福田さんは7月4日早朝に起床し、周辺住民に声をかけて車で避難。その後、球磨川の水位は急上昇し、市内を飲み込んだ。
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実録・浸水タワマン復旧への道程
2019年10月、2万5000ヘクタールを超える浸水被害をもたらした東日本台風。多摩川流域の内水氾濫で電気設備が浸水したタワーマンションでは、復旧に長期間を要した。こうした被害を踏まえ、国土交通省は20年6月に浸水対策ガイドラインを公表した。
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収蔵品水没、施設解体も視野
2019年10月の東日本台風(台風19号)の大雨で、排水樋管から多摩川の水が逆流するなどして、市街地約110ヘクタールが浸水した川崎市。多摩川沿いにある等々力緑地では19年10月12日、緑地内に立つ川崎市市民ミュージアムが甚大な被害を受けた。
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浸水対策と使い勝手を両立
鳥取市内を南北に流れる1級河川の千代(せんだい)川。河口から約3km地点の川沿いに、鳥取県立中央病院はある。洪水浸水想定区域内に位置するが、利便性が高い敷地内での建て替えを選択し、2018年10月に新棟が竣工した。
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「街の非常電源」を地上階に
2020年4月に開業した豊洲ベイサイドクロスは、東京メトロ有楽町線豊洲駅に直結する約2.8万m2の新街区だ。街区内には3棟のビルが立つ。メインとなるのは商業施設やオフィス、ホテルが入居する地下2階・地上36階建てのA棟。地下2階・地上9階建てのC棟にはエネルギーセンターが入る。地上24階建てのB棟…
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相次ぐ「居住誘導区域」の浸水被害
水害に備えつつ、いかにコンパクトな街づくりを進めるか──。街づくりのマスタープランである「立地適正化計画」を作成する自治体の、悩みのタネとなっている。
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福知山水害訴訟、衝撃の判決
2013年9月の台風18号がもたらした大雨で住宅が浸水した京都府福知山市。住民7人が市を相手取り、造成地が水害に遭う危険性の高さを認識していながら、土地の売り主としての説明を怠ったとして、総額約6200万円の損害賠償を求めた福知山造成地水害訴訟で衝撃の判決が下った。
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着工目前で計画が白紙に、苦渋の敷地選定
交通の利便性や中心市街地の活性化にもたらす効果と、安全性をどう両立すればよいのか──。2019年10月の東日本台風による大雨で町内が広範囲にわたって浸水した茨城県の大子町は、頭を抱えていた。
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滋賀「流域治水条例」その後
全国に先駆けて独自の水害対策を進めてきた滋賀県。2014年に流域治水条例を制定し、県内の水害リスクの高い区域に建築規制を設けた。県が進める流域治水対策とその課題を整理し、今後の街づくりに何が必要かを探る。