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 鳥取市内を南北に流れる1級河川の千代(せんだい)川。河口から約3km地点の川沿いに、鳥取県立中央病院はある〔写真1〕。洪水浸水想定区域内に位置するが、利便性が高い敷地内での建て替えを選択し、2018年10月に新棟が竣工した。

〔写真1〕新棟は浸水想定区域内に位置する
〔写真1〕新棟は浸水想定区域内に位置する
鳥取県立中央病院新棟の西側を千代川越しに見る。中央が新棟で、屋上にヘリポートを設置した。右手の灰色の建物がエネルギーセンターなどだ。同病院は、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる第2種感染症指定医療機関でもある。河口から約3km上流に位置する(写真:佐藤 和成)
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 新棟は地上11階建て、鉄骨造および鉄骨鉄筋コンクリート造で、免震構造を採用。設計は日建設計・安本設計事務所JVで、施工は清水建設・やまこう建設・大和建設・藤原組JVが担当した。

 鳥取県立中央病院は災害拠点病院に指定されている。災害時に24時間体制で傷病者の受け入れや搬出に対応する必要があるため、病院機能を止めるわけにはいかない。県は新棟計画の基本方針の1つに「災害に強い病院」を掲げ、建て替えに際しては地震対策だけでなく、徹底した浸水対策を求めた。

 洪水と津波が同時に発生した際の想定浸水深は、1階床高さから2.4m。既存の建物を一部、継続して使用するため、敷地全体のかさ上げは難しい。そこで、日建設計JVは柱頭免震を採用。免震層を1階床高さより2.6m高くし、浸水しないようにした。さらに病院の主要な機能やインフラ設備を、浸水リスクが低い2階以上に配置することにした〔図1〕。

〔図1〕重要な機能を浸水レベルより上に集約
〔図1〕重要な機能を浸水レベルより上に集約
鳥取県立中央病院の東西断面イメージ。想定浸水深が1階床高さから2.4mなので、病院の主要機能を2階以上に集約した。重要動線であるエレベーターへの浸水を防ぐため、止水板や防水扉を設置した(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成、右下の写真2点は鳥取県立中央病院)
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 病院の1階をピロティとするのは珍しい。一般的に、バリアフリーの観点から段差を設けず、1階に受付や外来など人の出入りを多く伴う機能を配することが多いからだ。同病院では主要機能が2階以上にあるため、来院者に分かりやすい動線計画が課題だった。そこで、エントランスは見通しがよい吹き抜けとし、エスカレーターで2階へ上がる計画とした。

 日建設計設計部門の中村俊一ダイレクターは、「鳥取市は降雨量が多く、風が強い。また、降雪量も多い。浸水対策の結果としてできた巨大なピロティは、来院者を雨風や雪から守るのにも役立つ」と説明する。ピロティは災害時などに、トリアージスペースとして使うこともできる。