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 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、病院に「感染症対策」という重い課題を突き付けた。

 これまで日本では、厚生労働大臣や知事などが指定する「感染症指定医療機関」が中心となって、感染症の患者を受け入れてきた。

 だが新型コロナの患者が急増して病床が不足。3月に厚生労働省が、新型コロナの感染患者を重点的に受け入れる「重点医療機関」の設置を自治体に求めた。感染症対策はいまや、一部の専門病院だけでなく、全ての医療施設にとって切実な問題となった。

 病院以外の施設にも影響は出ている。無症状あるいは軽症の患者を宿泊療養させるために、ホテルの活用が進められた。市中感染が今後さらに広がり、長期化することも想定して、病院の感染症対策をホテルやオフィスビル、商業施設でも応用したいと考えるビルオーナーやデベロッパーが増えている。

 清水建設は、順天堂大学の堀賢教授と共同で、建物の感染防止レベルなどを診断するコンサルティングツールを開発中だ。20年秋に発表を予定している。

感染症対策で社会に寄り沿う

 本来、感染症対策は、病院の設計、運用において基本となるものだ。しかし、いざ新型コロナのパンデミックが起こると、必ずしも徹底できていなかったことが露呈した。

 近年の病院設計では何が重視されていたのか。変遷を振り返ってみよう〔図1〕。1990年代後半は米国の富裕層向けにつくられた療養施設を真似て、ラグジュアリーな内装が日本で人気を博した。

〔図1〕変化する病院建築のニーズ
〔図1〕変化する病院建築のニーズ
社会のニーズに合わせて、病院設計も様々な変遷をたどった。今後は感染症対策をはじめとし、より医療サービスの質を高めるための空間や技術が求められる(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 その後、行き過ぎた豪華主義から一転してスタッフ重視の時代が続く。開放的なスタッフステーションや、交流を促す休憩室などが求められた。

 2011年の東日本大震災以降は、施設の耐震安全性、BCP(事業継続計画)対策などが、施設計画の前提となった。近年は、患者の高齢化対応や、ICT(情報通信技術)を使った実験も広がりをみせている。

 今後、新型コロナをきっかけに、感染症対策を重視するようになると、患者を隔離するための個室化、区画化が進むことが予想される。同時に、患者を見守り、効率的に医療サービスを提供するための最新技術の開発、導入も急務となる。病院設計のスタンダードはこれから大きく変わる可能性がある。

 ウイルスとの闘いは今後も続く。建築実務者は医学的根拠を踏まえつつ、人々を守る建築を提案し続けることが重要だ。