一定の断熱性能が確保できたら、次に意識したいのが気密性能だ。前真之・東京大学准教授は、外皮平均熱貫流率UA値を小さくするだけでなく、建物全体の熱損失バランスを考えることが重要だと言う。

前回の連載「ポツ窓住宅は省エネ?」(2020年12月24号掲載)で触れた窓の断熱性能の向上。その次のステップとなるのが、床、壁、天井の断熱強化だ。
では、これら各部位の熱貫流率U値を小さくし、建物全体の熱貫流率UA値さえ小さく抑えておけば、暖房時の熱損失を効果的に減らせるのだろうか。まずは、壁の断熱強化について考えてみよう。
熱貫流は、断熱材が厚くなるほど減少する〔図1〕。異なる厚さのグラスウール(GW)を壁に充填したケースを、壁のU値とともに図2に示した。
シングル断熱からダブル断熱へ
発泡プラスチックボードの場合は熱伝導率λ(ラムダ)がGWの半分程度であるため、厚さ50mmでGW100mmとほぼ同等の断熱性能となる。ボード系断熱材は外張り断熱を行いやすく、熱橋が少ないことが大きなメリットである。
建築物省エネ法で定める基準値をクリアするためには、断熱等級4程度であれば柱間充填または外張りのどちらか一方の「シングル断熱」で十分だ。いずれの手法でも0.4程度のU値を確保できる。
しかし、HEAT20(20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)のG1やG2グレード以上の断熱性能を狙うとなると、シングル断熱では力不足。柱間充填と外張りによってダブル断熱を行う「付加断熱」が必要になるのだ。
壁のダブル断熱は手間がかかるが、天井裏にGWを厚く吹き込むのは簡便なので、天井だけU値を小さくして全体のUA値を引き下げる手法はよく使われる。
しかし、壁の断熱強化は、室内側の表面温度の上昇にもつながる。断熱だけでなく放射環境の両方を改善するため、壁の断熱も余裕を持って取り組みたい。