冬に快適な室内温熱環境を実現するためのほぼ唯一の方法は「全館24時間暖房」である。前真之・東京大学准教授はこう言い切る。全館24時間暖房をリーズナブルな暖房費で運用するためのポイントをみていこう。
室温を健康・快適な範囲に維持するためには、熱損失の低減を徹底するのはもちろん、暖房設備によって上手に熱を供給する必要がある。少ないエネルギーコストで快適な暖房は実現できるのだろうか。外皮性能と暖房効率の関係について、暖房費と併せてみてみよう。
壁掛けエアコンは夏の冷房を第1の目的として設置されるが、ついでに冬の暖房もできれば設備コストを抑えられて都合がよい。
しかし、低断熱・低気密な住宅の場合は、室内の放射温度が低い中で「快適な作用温度(≒空気温度と放射温度の平均)」の確保、および「大量の熱負荷」を処理する必要がある。そのためエアコンは、やむなく高温の空気を吹き出すことになり、温度ムラや乾燥感が大きくなる。
エアコンなどの空気暖房が供給できる熱量(顕熱)は、「送風量」と「吹き出し温度と室内温度の差」のかけ算で求められる〔図1〕。
前者の送風量は、エアコンでは600m3/hあたりが上限であるため、大量の熱を送り込むには吹き出し温度を上げるしかない。だが、高温の空気は軽く相対湿度が低いので、顔付近の暑さや乾燥感、足元の寒さなどの原因となってしまう。
外皮の断熱・気密が改善できれば、放射温度が上昇し熱負荷も小さくなるので、エアコンの吹き出し温度を下げられる。ぬるい空気は軽くなく相対湿度も高くなるので、快適性が向上する〔図2〕。
どんな暖房方式でも、断熱・気密による「放射温度の向上」と「熱負荷の低減」という恩恵は共通であり、快適な室内環境のための大前提である。ただし、エアコンの弱点である気流感の解消は難しく、設置場所などに十分な注意が必要だ。