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コロナ禍による景気悪化に伴い、多くの建物用途で新築需要が減りそうだ。絶好調だった宿泊施設は、インバウンド需要の蒸発で打撃を受けるとみられる。「3密」回避に、オンラインへの移行。コロナは建物の在り方までも変えつつある。

 新型コロナウイルスの影響で、今後、設計・監理業務の需要が落ち込む建物⽤途はどれか──。日経アーキテクチュア調査で建築設計事務所にこうした質問を投げかけたところ、トップ3は宿泊施設(80%)、商業施設(59%)、事務所(41%)だった〔図1〕。

〔図1〕コロナ禍で需要が落ち込む用途は?
〔図1〕コロナ禍で需要が落ち込む用途は?
コロナ禍で今後需要が落ち込むと予想される用途について、日経アーキテクチュア調査に回答した建築設計事務所に3つまで選んでもらった。調査概要は下記(資料:日経アーキテクチュア)
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調査概要
  • 各社の2019年度単体決算(2019年4月~20年3月の間に迎えた決算期の単体実績)をアンケート形式で調査した。調査票は20年6月初旬に郵送し、7月初旬までに回収した
  • 調査主体:日経アーキテクチュア
  • 調査協力:日経BPコンサルティング
  • 調査対象は、(1)公共建築設計者情報システム「PUBDIS」から抽出した20人以上の建築設計事務所、(2)前回調査(2018年度決算ランキング)における回答企業で、合計368社。回答社数は116社(回答率31.5%)

 コロナ禍で大きな打撃を受けている宿泊業。緊急事態宣言下で休業を余儀なくされ、その後もインバウンド需要の蒸発や出張客の減少で稼働率の低下に苦しむ。東京を除外して始まった政府の「Go To トラベル」キャンペーンの効果も未知数だ。多くの設計事務所が、宿泊施設の需要の落ち込みを予測するのもうなずける。

 各社の2020年度決算における設計・監理業務売上高の見通しを用途別に集計してみても(20年6月~7月時点)、これまで好調だった宿泊施設で「減少」(28%)が「増加」(13%)を大きく上回り、コロナ禍のマイナスの影響が既に顕在化しつつあることをうかがわせる結果となった〔図2〕。

〔図2〕2020年度決算の設計・監理業務売上高(用途別)の見通しは?
〔図2〕2020年度決算の設計・監理業務売上高(用途別)の見通しは?
図は日経アーキテクチュア調査に回答した建築設計事務所の2020年度の設計・監理業務売上高の見通し(建物用途別)。小数点以下を四捨五入したため合計が100%にならない場合がある。天気図は、各用途について「増加」と「減少」の差分を計算し、左上の凡例に当てはめて決めた(資料:日経アーキテクチュア)
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 ただし、「宿泊施設の需要の落ち込みは短期的な動きだ」とみるのは三菱地所設計の清水明執行役員。「政府が観光立国を掲げている以上、いずれ持ち直す。宿泊施設の不足で観光客を呼び込めないと悩む地方都市は少なくない」と説明する。同社が設計や監理を手掛けるホテル案件は、計画通り進んでいるという。

 では、宿泊施設の次に回答が多い商業施設はどうか。多くの人が3密(密接、密集、密閉)を回避するなか、不特定多数が集まる商業施設の運営は厳しい状況にある。

 さらに、コロナ以前から伸びていた電子商取引(EC)の成長に拍車がかかり、追い打ちをかけそうだ。20年度決算の見通しでは、商業施設は36%が減少と回答し、増加(10%)を大きく上回る一方、倉庫・物流施設は増加を見込む企業が26%で、減少をわずかながら上回った。

伸びるのは医療施設

 一方、コロナ禍の影響が少なく、設計事務所が需要増を期待する建物用途もある。代表的な用途が医療施設だ。山下設計ソリューション本部長の岸川聡史取締役執行役員は「医療施設は、景気がよくて建設費が高騰している時期は需要が抑え気味になる傾向がある」と説明する。

 そのため、東京五輪開催後に建設会社の受注競争が激化して建設費が下がると予測し、五輪後の着工を狙っていた医療法人が多いという。新型コロナ対策で設備投資も増えており、需要増が期待できる。

 官公庁が発注する施設の需要も堅調だ。コロナ対策費が財政を圧迫し、庁舎などの建設事業の中止や延期を決めた自治体もあるが、逆に「緊急事態宣言下で庁舎設計委託業務の入札公募を開始した自治体もあった」(山下設計の岸川取締役)。医療施設や官公庁の設備投資計画は長い年月をかけて計画を練ってきただけに、コロナ禍ですぐに中断できないものも少なくないようだ。