全1877文字
PR

都市部でのドローン飛行には危険が伴う。だが、ドローンによる外壁調査の手法が確立すれば、仮設足場が不要になるなど、大幅なコストダウンが見込める。政府は建築基準法の見直しを掲げており、ドローン活用の動きが活発化している。

 都市部に立つ超高層ビルの外壁調査にドローンを活用する動きがある。西武建設(埼玉県所沢市)が開発を進める「ラインドローンシステム」だ。建物の外壁に沿って縦方向に張った糸(ライン)がドローンの飛行をガイドし、安全性を高める。いわば“命綱”付きドローンだ。同社はこのシステムを2020年11月から外販する計画だ。

 既に20年6月から、調査会社など5社によるテスト利用が進んでいる。各社は自社ビルや調査依頼を受けたビルなどで実際に新システムを活用し、使用感や改善点などを西武建設にフィードバック。外販までにシステムの完成度をさらに高める。

 市場テストに先立ち、20年3月には中野サンプラザ(東京都中野区)で公開実験を実施した〔写真12〕。建築研究所と日本ツーバイフォー建築協会、西武建設の3者による共同研究の一環だ。3者によると、超高層ビルでの「ドローン点検」は国内初となる。

〔写真1〕高さ90m超の中野サンプラザで公開実験
〔写真1〕高さ90m超の中野サンプラザで公開実験
建築研究所と日本ツーバイフォー建築協会、西武建設の3者は、高さ90mを超す中野サンプラザでラインドローンシステムの公開実験を3月17日に実施した(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真2〕縦の糸がドローンの飛行をガイド
〔写真2〕縦の糸がドローンの飛行をガイド
ラインドローンシステムでは、外壁に沿って縦方向に糸(ライン)を張り、ドローンの飛行をガイドすることで安全性を高める。実証実験では、壁面から約3mの距離を保って上下に移動しながら2秒に1枚の間隔で写真を撮影した(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 建築分野でのドローン点検は土木分野のインフラ点検などと異なり、人口集中地区での実施が前提となる。

 航空法では、同地区上空でのドローン飛行を禁止しており、国土交通省の許可を得た場合に限り飛行可能としている。人口密度の高い都市部での安全性の確保が、普及に向けた最大のハードルだ。林立する建物が障害となってGPS(全地球測位システム)などの電波障害が起こりやすく、ドローンが墜落した際の被害リスクも高いなど、課題が多い。

 建築研究所材料研究グループの宮内博之主任研究員は、「足場レスのドローン点検で外壁の健全性が確認できれば、大規模修繕までの『時間稼ぎ』になる。足場を組むタイミングが数年でも後にできれば、修繕費の削減が図れる。建物の長寿命化にもつながっていく」と期待を込める。

 今回の実証実験の目的は主に、安全性と調査精度の安定性を確認すること。通常ならドローンが飛ばせないような難易度の高い場所をあえて選んだ。中野サンプラザは、JR中野駅前に立ち、道路を挟んで区庁舎などがある。高さは90m超だ〔写真3〕。

〔写真3〕外壁面の膨れなどを点検
〔写真3〕外壁面の膨れなどを点検
公開実験を実施した中野サンプラザ。写真左側の外壁面の膨れなどをドローンで調査した。中野サンプラザは、鉄骨鉄筋コンクリート造の地下3階・地上22階建てで、高さは90mを超える(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]