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大学の経営に詳しい鎌倉女子大学の山本清教授、大学の設計実績が多い東海大学の岩崎克也教授。専門的な視点の2人には今後のキャンパス像はどう映るのか。これからの大学について聞いた。

ポストコロナは「近郊」立地に強み

山本 清氏(鎌倉女子大学学術研究所教授、東京大学名誉教授)
山本 清氏(鎌倉女子大学学術研究所教授、東京大学名誉教授)
やまもと きよし:1953年生まれ。75年京都大学工学部卒業。岡山大学教授、国立学校財務センター教授、東京大学教授などを経て、2018年から鎌倉女子大学学術研究所教授。大学政策およびガバナンス・経営の在り方と実態について研究(写真:山本 清)

 コロナ禍に見舞われるまで、「選ばれる大学のキャンパス」として重視されてきたのは、立地の利便性や、きれいでおしゃれなこと、あるいは伝統といった点だった。特に最近の学生は、アルバイト先を近隣で見つけられる便利な立地を重視する。現代の学生にとってアルバイトは不可欠で、大学生活に必要な費用の3分の1程度をアルバイトで稼がなければならない学生も少なくない。そのことが、キャンパスの都心回帰を加速させる1つの要因となった。

 どの大学も、社会の変化に応じてキャンパス整備を続けていく必要があるが、その方針や内容が、コロナ禍を受けて変わる可能性がある。例えば、英オックスフォード大学などは、実験が必要な理科系のキャンパスを優先的に整備する一方、文科系は対面とリモートを併用した授業の在り方などを検討している。

好立地は“賃貸”で負担軽減も

 授業の在り方が変われば、キャンパス整備の仕方も変わる。従来のような大教室はいらなくなり、不要な校舎が出てくるかもしれない。大学経営の中で、不要な校舎やキャンパス敷地の利活用の問題、あるいは立地の問題が浮上してくる可能性があり、大学の都心回帰が立ち止まることも考えられる。

 新型コロナウイルス感染予防を含めた環境づくりや、学生が求める利便性などを勘案すると、今後、強みになる立地は、都心と郊外の間の「近郊」ではないか。リモート授業を徹底したり、奨学金制度を充実させたりすれば、都心にいる必要はない。

 また、ポストコロナ時代のキャンパスは、機能性の追求ばかりではなく、学生がホッとできるような景観やデザインも必要だろう。近年、増加したビル型の都心キャンパスは、機能主義がかなり強い印象を受ける。

 ここからは個人的な意見だが、駅前などの好立地ならば、これからはキャンパスを所有せず、賃貸のほうがよいと思う。時代や社会の変化に応じてキャンパスの伸縮や移転をしやすく、経営の負担やリスクの軽減につながる。しかし、キャンパスの所有にこだわる大学は今も多い。(談)

ポストコロナのキャンパスづくりの視点
ポストコロナのキャンパスづくりの視点
(資料:山本清氏への取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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