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40数年前に創立したこども園に2020年、子どもたちが昼食を取るための新棟が加わった。園では既存棟に順次機能を建て増ししており、設計者は完結することのないマスタープランを描く。

 広島県福山市の山裾の住宅街に立つ「こどもえん つくし」。幼保連携型の認定こども園だ。1978年創立の同園に2020年、ダイニングホール棟が加わった。4~5歳児や教員が昼食を取るホールや厨房、4~5歳児の保育室、教員用のラウンジを備える。

 設計者は、12年に完成した乳児棟Peanuts(ピーナッツ)と同じくUID(福山市)主宰で広島工業大学教授の前田圭介氏。ダイニングホールの天井高は6.35mに及ぶ。「Peanutsは0歳児に限られる。こちらは4~5歳にならないと入れない雰囲気の、子どもたちが憧れるたたずまいを目指した。4~5歳の身体スケールを超え、感性に訴えかける空間を狙っている」と前田氏は言う〔写真13〕。

〔写真1〕鉄骨を木製パネルで補強した十字柱
〔写真1〕鉄骨を木製パネルで補強した十字柱
2層吹き抜けのダイニングホール。40人ほどの子どもと教員、保護者が集う場としてつくった。柱は鉄骨の角パイプを十字形の断面になるよう木パネルで補強したもの。角パイプの上部は方杖で連結している(写真:母倉 知樹)
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〔写真2〕十字柱に合わせて建物周囲に高木
〔写真2〕十字柱に合わせて建物周囲に高木
西側の既存棟からダイニングホール棟を見る。3.5mグリッドで並ぶ十字柱に合わせるように周囲に高木を植えている。両棟の間には、既存棟に沿う形で水路が走っている(写真:母倉 知樹)
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〔写真3〕アパート跡地に建設
〔写真3〕アパート跡地に建設
2012年に完成した乳児棟 Peanutsの脇からダイニングホール棟を見る。ダイニングホール棟が立つ場所には以前、老朽化したアパートがあった。その土地が売りに出されたのを機に建設した(写真:母倉 知樹)
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 園長の甲斐弘美氏から伝えられたのは、「よくランチルームと言われるが、ルームではなく広がりのある空間がいい」という要望だった。「ルームというのは床や壁、天井で囲われたイメージ。それをベースにどう広がりを与えるかを考えた」(前田氏)

 試行錯誤の末、前田氏が行き着いたのは、逆末広がりの柱をグリッド状に配置したラーメン構造だ。柱はスチール材と木製パネルで十字断面に仕上げたもの。3.5mグリッドとしたのは、子どものスケールに合わせるためだ。グリッドを外壁に対して45度振ることで広がりを生んでいる。子どもの低い目線からは空間が見通しやすく、見上げると見通しが利かなくなる。「森の中のように、木々に包まれたような環境だ」(前田氏)