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子どもの遊び場を研究するとともに、多くの学校施設の設計を手掛けてきた仙田満氏。これからの教育空間では、子どもの逃げ場ともなる居場所づくりが重要だと仙田氏は説く。

仙田 満氏 東京工業大学名誉教授 環境デザイン研究所会長
仙田 満氏 東京工業大学名誉教授 環境デザイン研究所会長
せんだ みつる:1941年神奈川県生まれ。64年東京工業大学理工学部建築学科卒業、菊竹清訓建築設計事務所に入所。68年環境デザイン研究所を設立。琉球大学や名古屋工業大学、東京工業大学などの教授を歴任。2001~03年日本建築学会会長。04~10年こども環境学会会長(写真:日経アーキテクチュア)

小中学校をはじめ、現状の教育空間についてどう捉えていますか。

 教育空間は変わりつつあるし、変わらなければいけません。日本の子どもの幸福度が低いからです。子どもの自殺率が高い値で推移しており、由々しき事態になっています。特に休み明けの学校が始まる時期に子どもの自殺件数が増加しています。

 本来、楽しく過ごせる学校であれば子どもに登校したくないという気持ちは生まれないはずです。設計者は子どもがわくわく過ごせる学校をつくる必要があります。

 最大の問題は、自分の居場所がないことでしょう。その意味では教室と廊下だけで構成されている学校はまずいと思います。

 私が会長を務める環境デザイン研究所の設計で2020年に開校した幼・小・中混在校の軽井沢風越学園では、図書室と特別教室を中心に据えて1階に配置し、教室を2階に設けました〔写真1〕。

〔写真1〕図書室中心の学校施設
〔写真1〕図書室中心の学校施設
仙田氏が会長を務める環境デザイン研究所が設計した軽井沢風越学園の内観。図書室を学校の中心に配し、子どものための居場所を設けた(写真:環境デザイン研究所)
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教室とそれ以外の空間の関係が逆転しているイメージでしょうか。

 そうです。教室が並ぶ一般的な学校とは異なります。校舎の至る所に子どもの居場所をつくりました。学校全体が図書館のようなものなので、子どもが疑問に感じたことをすぐに調べられます。

 居場所というのは、背中に床の間を背負って、庭が見えるイメージです。背中に安心できる部分があった上で、正面が開放的であることが重要です。そうした考えを基に、円環ではなく半円や扇形の平面を持つ、半分が開かれている学校施設を設計しています。

 幼児教育では、子どもが養育者に抱かれるなどして安心感を得るから挑戦できると捉えるアタッチメント理論があります。この理論は建築空間にも当てはまるでしょう。