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スポーツ興行をリードするプロ野球界で、2球団が客数の規制を一時解除した。政府承認の下、感染予防のための技術を制限のない状態で使ってみるのが目的だ。3万人規模の観衆からデータを取得。今後に生かす。
「コロナ禍を経験した後の『新しい観戦スタイル』を探る。野球以外の屋内外のスポーツ、コンサートなどの娯楽にも知見を生かしてもらいたい」
2020年10月30日、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの本拠地を運営する横浜スタジアム(横浜市)の藤井謙宗社長は、こう語った。
本来の上限は、収容人員3万2402人の50%に当たる1万6000人。今回、実施3日目となる11月1日の観客は約86%、2万7850人に上った。満員近くに達する日も多かったスタジアムに「日常」が戻った。
高揚感で気が緩み、予防を忘れた振る舞いも起こり得る。「高精細カメラなどを使い、観客の行動や我々が気づいていなかった状況を把握する」(藤井社長)。「技術実証」と位置付け、神奈川県の他、NEC、KDDI、LINEなどが参画した。
神奈川県のCIO(情報統括責任者)などを務める江口清貴氏(LINE執行役員)は、「マスクを外すとしたらタイミングはいつか。密になる場所はどこか。運営する側の感覚値が正しかったのか検証し、対策を講じる。その積み上げが狙いだ」と説明する。
10月30日~11月1日 横浜スタジアム
▼空気環境や混雑箇所を把握
風速計(増設)と二酸化炭素(CO2)濃度計で空気の流れ(換気)を検証(後者は産業技術総合研究所が協力)
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CO2濃度計はダグアウトなどの他、客席にも設置した。屋外では空気が滞留する可能性は低いが、予断を持たずに臨んだ。飛沫の飛散はスパコンで解析する
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ビーコン(電波受信機)を設置してトイレや売店の混雑状況を把握した(LINEが協力)(写真:安川 千秋)
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▼人流やマスクの有無を追跡
五輪会場にもなる横浜スタジアムの技術実証。例えば、スタジアム要所にカメラを設置し、人流や着席・離席、マスクの有無・着脱を追い掛けた(NECが協力)。「認識」技術までの採用とし、「認証」による個人の特定はしていない。顔認識技術には歴史があり、直近では、どんなマスクの色や柄でも認識できるように解析エンジンの性能向上を図っている(写真:安川 千秋)
翌週、続いて東京ドームも技術実証の場となった。NTTドコモ、日立製作所などが参画。11月8日には3万1735人を動員した。
11月7日~8日 東京ドーム
▼映像解析で混雑把握
(写真:日経アーキテクチュア)
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場内カメラの映像を使い、動いている人と止まっている人を色の異なるアイコンで表示。各所の混雑具合を把握する人流可視化システムを導入した(日立製作所が協力)。ビーコンを設置して来場者の動きを分析する他、球場周辺の繁華街などにおける入退場前後の動態の把握も試みる(前者はアドインテ、後者はNTTドコモが協力)(写真:日立製作所)
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▼感染発生時には座席位置から接触度を把握
既に感染症対策のリニューアルを行っている東京ドームの技術実証。万が一新型コロナウイルス感染者が発生した場合、その感染者の座席周辺の観客にメッセージで知らせる仕組みを導入した。自席のQRコード(写真)を読み取るとユーザー登録される。(LINEなどが協力)