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建築物や内装の意匠登録を可能とする改正意匠法が2020年4月1日に施行された。この法改正を特許庁へ呼びかけた1人が中路星児氏だ。法的権利が確立することでデザイナーの地位が向上し、独自性ある「強いデザイン」が生まれると説く。

(写真:北山 宏一)
(写真:北山 宏一)
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中路 星児(なかじ せいじ)
1979年生まれ。2006年カルチュア・コンビニエンス・クラブグループに入社。16年から主にコンテンツ事業・新規事業・店舗事業を担うグループ各社の法務責任者を歴任し、グループの知財戦略の実務責任者を務めている

 視界いっぱいに書棚が並ぶ代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区)。店舗運営者のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のデザイナーが発案・設計し、同社が「本の小部屋」と呼ぶ。同社はこのデザインについて2020年10月16日付で意匠登録を取得した〔写真12〕。

〔写真1〕内装の意匠登録第1号「羽田空港 蔦屋書店」。特許庁が20年10月26日に公示した。登録料納付を経た登録決定は10月8日だ(写真:カルチュア・コンビニエンス・クラブ)
〔写真1〕内装の意匠登録第1号「羽田空港 蔦屋書店」。特許庁が20年10月26日に公示した。登録料納付を経た登録決定は10月8日だ(写真:カルチュア・コンビニエンス・クラブ)
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〔写真2〕20年4月に開業した「奈良 蔦屋書店」では、「本の小部屋」を採用した。このデザインに関する意匠登録が公示されたのは20年11月2日、登録決定は10月16日だ(写真:カルチュア・コンビニエンス・クラブ)
〔写真2〕20年4月に開業した「奈良 蔦屋書店」では、「本の小部屋」を採用した。このデザインに関する意匠登録が公示されたのは20年11月2日、登録決定は10月16日だ(写真:カルチュア・コンビニエンス・クラブ)
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 日本の意匠登録制度は従来、「物品(動産)」が対象で、不動産である建築物は対象外。4月1日施行の改正意匠法はこの定義を改め、「建築物」「内装」などの意匠登録を可能とした。CCCの中路星児氏らが約5年前から特許庁に働きかけ、提言を続けたことが法改正につながった。

 特許庁によると、4月以来、建築物や内装の意匠登録出願は300件を突破。大きなブームになろうとしている。CCCはその権利取得第1号だ。

議論呼ぶ「デザインと知財」

 デザインと知的財産権の関係を巡っては様々な議論がある。中路氏は「意匠権に基づく差し止め請求などで、建築デザインが窮屈な業界になるんじゃないか、という意見は多い。だが法的な保護が受けられるからこそ、デザインにアイデンティティーを求め、思い切った投資をしようという企業も現れる」と説く。

 11年にオープンした代官山の店舗は、ネット通販が勢いを増すなか、新たなリアル店舗の在り方を提示するため「当時の書店としては考えられなかった規模のデザイン投資を経て完成した」(中路氏)。だが当時、その内装デザインには法的権利がなく、模倣防止が難しいという状況に、素朴な疑問を感じたという。

 意匠法を変えるべきでは? そんな中路氏の考えは、最初は一笑に付されることも多かった。だが諦めなかった。学生時代に映画配給会社を起業した経験があり、映画産業や音楽産業と同様、商業施設でもクリエイターとしての権利が認められるべきだ、という思いがあった。

 「ネット通販全盛だからこそ、商業施設では空間デザインの価値がむしろ高まった。意匠登録は切磋琢磨(せっさたくま)する土壌になる」と中路氏。21年以降、内装の商標権の確立にも挑む。