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VR(仮想現実)などのデジタル技術を活用して、現実空間では味わえない新たな空間体験を創出できないか──。そんなニーズに応えようと、バーチャル空間の設計を手掛ける建築設計事務所が現れた。
リアルではなく、バーチャルな建物を設計してくれないか──。隈研吾建築都市設計事務所の隈研吾氏に異例の依頼が舞い込んだ。依頼主は通信制高校の「N高等学校」を運営する角川ドワンゴ学園(沖縄県うるま市)。学園が求めたのは、2021年4月から開始するVR学習コースの象徴となるバーチャル空間内の校舎「学びの塔」の設計だ〔図1〕。
隈氏が設計した“校舎”は縦横に広がるらせん状の回廊から、滝が勢いよく流れ落ちるデザインだ。隈氏のイメージやスケッチを基に、事務所のCGチームの所員がゲームエンジン「Unreal Engine」を使い、具体的なデザインに落とし込んだ。
「日常の世界から、いかに逸脱させるかを念頭に置いた。一方で、人が全く見たことのない空間にしてしまうと、それが学校だと認知できないので、学校らしさを盛り込む必要もあった」(隈氏)
設計事務所退職後にVRの道へ
仮想空間の設計をいち早く仕事にしてきた先駆者が、番匠カンナ氏。建築設計事務所を退職後、18年からVRやMR(複合現実)といったxR空間の設計などを手掛ける「バーチャル建築家」として活動の幅を広げている。
番匠氏は、VR空間内でアバター(分身)を通じてコミュニケーションする「VR Chat」で遊ぶ中で、VR空間の設計業務を手掛け始めたという。
代表作は、バーチャル空間上の巨大展示即売会「バーチャルマーケット」の会場だ〔図2〕。来訪者に高所恐怖症の人がいる可能性を考慮し、仮想空間ながら柵を設けるなど、現実空間と同様にユニバーサルデザインを意識して設計している。