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デジタル技術の進化に伴い、建築・都市の設計はどう変わるのか。1月1日に日建設計の代表取締役社長に就任した大松敦氏は、コロナ前から「人の移動」が大きく変化し始めていたことに着目する。

大松 敦氏(おおまつ あつし)
大松 敦氏(おおまつ あつし)
1960年生まれ。83年に東京大学工学部建築学科を卒業し、同年に日建設計に入社。2016年に取締役常務執行役員、19年に都市部門統括。21年1月より現職。大手町連鎖型再開発(1次、2次)、渋谷駅周辺再開発プロジェクトなど、東京都心の大規模再開発を多く手掛けてきた(写真:日経アーキテクチュア)
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デジタル技術は建築にどのような変化をもたらすのでしょうか。

 遠隔教育・診療が定着すれば、学校や病院は、オンラインでのコミュニケーションに特化したスタジオの集合体のようなものになるかもしれません。建築の姿は、思ってもみないかたちに変わる可能性があります。

 新型コロナウイルスの影響で社会全体のDXが加速しましたが、実はそれ以前から変化の兆しは現れていました。このデータをご覧ください。これは、東京都市圏の人の移動を10年ごとに明らかにした「パーソントリップ調査」の結果です〔図1〕。

〔図1〕パーソントリップ調査の開始以来初めて「人の移動」が減少
〔図1〕パーソントリップ調査の開始以来初めて「人の移動」が減少
パーソントリップ調査の結果。人がある目的の下で、ある地点から別の地点へ移動する単位がトリップ。1回の移動でいくつかの交通手段を使っても1トリップと数える。調査対象地域は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県南部(資料:東京都市圏交通計画協議会)
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 2018年の調査では、1968年の調査開始以来、初めて人の移動が減少に転じました。人口は増加しているにもかかわらず。これはかなり衝撃的です。この10年でスマホが急速に普及し、大抵の買い物はインターネットで済むようになった。デジタルが人の動き方を大きく変えているのです。

 移動の総量が減り、さらには在宅勤務や時差出勤などの普及でピークがならされるようになった。エレベーターの台数にしても通路の幅にしても、建築は人の移動のピークに合わせて設計するものですから、オフピークが当たり前の時代には、これまでの設計方法だと冗長になってしまいます。空いたスペースをどう活用するか、2021年からトライしていかなくてはならない課題だと感じています。