建設ロボットで現場を「工場」に変えるアプローチに対して、工場で建築物のモジュールを製造し、現場で組み立てるという発想が、世界で改めて注目を集めている。その最前線が、シンガポールだ。
工場で内装まで仕上げた鉄筋コンクリート(RC)のモジュールを、大型クレーンでレゴブロックのように積んでいく──。鹿島が現地法人を通じて進めるウッドレイ複合開発工事の現場には、日本ではまずお目にかかれない光景が広がる〔写真1、2〕。
ウッドレイ複合開発はシンガポールの都心から北東5kmの土地に店舗や667戸の住宅などで構成する大型施設を建てるビッグプロジェクト〔図1〕。2018年に着工し、22年の竣工を目指して工事が進んでいる。その最大の特徴が、住宅部分に用いたPPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)と呼ぶ工法だ。記事冒頭のように、建築のモジュールを工場生産して現場に運び、クレーンで組み立てる〔写真3〕。
シンガポール政府は建設現場の生産性や安全性を高め、品質を向上させる目的でPPVCを推進している。既に同国内で数十件の実績がある。政府が払い下げる土地で住宅を開発する場合にPPVCを採用する決まりがあり、ウッドレイ複合開発でも、土地の入札時からPPVCを使う条件が課せられていた。
PPVCで使用するモジュールはRC造が主流だ。日系建設会社で初めてPPVCに挑む鹿島が、ウッドレイ複合開発工事で採用したのもRCのモジュール。1個当たりの大きさは幅3.4m、高さ3.1m、長さ10mほどで、道路を輸送できる目いっぱいのサイズだ。使用するモジュールの総数は、約2500個に上る〔図2〕。
モジュールは、マレーシアの工場で製造。シンガポールの工場で内装やトイレなどの仕上げを施して現場に運んだ。完成したモジュール1個は20~35トンほど。建築工事で35トンもの重量物を一気に揚重することはあまりない。この現場では400トン級のクレーンを用いている。
モジュール同士は、鉄筋とワイヤによって上下左右をつなぎ、隙間にグラウトを注入して接合する。継ぎ手の納まりは、建設会社や設計事務所がそれぞれ独自に生みだした「秘中の秘」。鹿島も同様だ。
現場を率いるカジマ・オーバーシーズ・アジアの神崎洋一所長は、「シンガポールは地震国ではないので風がメインになるが、水平力をどう負担するか検討し、初期段階から構造設計者と一緒に苦労してディテールを詰めた」と振り返る。