多くの人がコロナ禍で体感した「不自由さ」は、建築・都市の在り方に一石を投じる衝撃があった。社会変化を各々の分野で感じ取っている3組の先導者に、新時代に対応するための考え方を聞いた。
谷尻 誠・吉田 愛 サポーズデザインオフィス共同主宰
用途地域の見直しも必要

建物を「何かをする場」と限定的に捉えることは、これから減っていくのではないでしょうか。住んで、働いて、商売もできる。そのためには、都市計画法上の用途地域制限も見直さないとだめでしょう。
例えば、1つの街で住みながら働く場合、住宅街の中にオフィスや食堂、保育園などが欲しい。特に、第一種低層住居専用地域だと十分な広さを確保することが難しいですよね。これからは建物も職業も働き方も、様々なセグメントがなくなり、混ざり合う社会になるのではないかと思います。
最近手掛けたプロジェクトで興味深かったのが、ほぼ日(東京都千代田区)のオフィス移転に伴う内装設計でした。2020年3月ごろに打ち合わせを開始したとき、糸井重里社長が提示したコンセプトは、「夜逃げできるオフィス」でした。
変化が激しい時代だからこそ軽やかな対応が求められる。そうした意味を「夜逃げ」に込めています。その価値観は今の時代にぴったりですよね。設計ではそのコンセプトを基に、空間をつくり込み過ぎないことにこだわりました。
「外を使う」が伝わりやすく
建て主の意識が変わったと感じた例がもう1つ。植栽関連の事業を手掛けるS社の新社屋の設計です。
私たちはこれまで住宅や商業施設の設計など、あらゆる機会に「外を使う」提案をしてきました。S社では、窓を開放すると屋内外の空間が一体となり、室内に木陰ができるようなオフィスを目指しています。コロナ禍で、オフィスでも「外を使う」提案が受け入れられやすくなったと感じています。(談)