変わる時代に設計者は何ができるか。乱立していた大規模再開発の流れにブレーキはかかるのか。建築史に詳しい五十嵐太郎氏と、数々の大規模再開発に関わってきた内藤廣氏に聞いた。
五十嵐 太郎 東北大学大学院教授
東京の先行く地方の挑戦

収束の見えない新型コロナウイルスの感染拡大は、今後の建築の在り方を変えると思いますか。
2020年、アフターコロナをテーマとした、2つのコンペ審査に参加しました。提案で非常に多かったのが、「ビルディングタイプ」の再編成を扱った内容でした。住宅地に非住宅の機能が細かく入ってくるような提案もありました。以前からインターネットの普及は進んでいましたが、コロナ禍で一挙にリモート化が加速したと感じます。収束しても、元の生活に全て戻るとは正直思えません。
建物の種類を表す「ビルディングタイプ」は、社会と一緒のものです。社会が変われば、当然ビルディングタイプも変わる。近代以降、働く場所と住む場所を分けようと建築家たちが提唱し、オフィスと専用住宅が確立されてきました。逆にいえば、その前は混同していたわけです。
革新の背後には、必ず補助的な技術の発明があります。19世紀から鉄道が発達して大量輸送システムを実現できたから、居住地と働く場所が離れていても成立するようになりました。超高層ビルも、エレベーターがなければ人は移動できず、意味をなさない建築だったでしょう。
新しい時代に、設計者は何ができるでしょうか。
参考となるのが、音楽業界かもしれません。音楽学者の岡田暁生・京都大学人文科学研究所教授が著した「音楽の危機」(中公新書)では、飛沫対策の影響でベートーヴェン作曲の「交響曲第9番(第九)」が歌えなくなったことを取り上げていました。話題は劇場論へと続き、今後は従来の閉じたコンサートホールではなく、新しいホールが生まれるのではないかと提言しています。
実は既に、山口県美祢市で磯崎新氏が設計した「秋吉台国際芸術村」(1998年竣工)に、オペラ「プロメテオ」を上演するためのコンサートホールがあります。群島状に客席を配置し、一般的なホールとは一線を画す発想でつくられています。
地方は東京より地価が安い分、敷地を十分に確保できることが多く、実験的な設計に挑戦しやすい。この30年近くの平成時代を振り返っても、面白い建築は地方に多かった気がします。東京は地価が高い分、短い期間で投資回収しなくてはいけないという圧力が強いのでしょうか。その感覚が変わらないと、建築すること自体に慎重になりそうです。
コロナ禍で実空間の重要性が再認識されました。地方でも東京でも、そこでしか経験できない空間が求められています。設計者の腕の見せどころです。(談)