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東日本大震災であらわになった長周期地震動の威力。超高層ビルが立ち並ぶ東京・西新宿で、着々と対策が進んでいる。なかでも新宿住友ビルは2020年6月、前例のない制振システムの導入を完了した。

 1974年に竣工した54階建て、高さ約211mの新宿住友ビルが2020年6月、足元を巨大なガラスのアトリウムで覆って生まれ変わった〔写真1〕。同ビルは平面形状が三角形に近いことから「三角ビル」の愛称で知られている。この三角平面のコーナー付近に、他に例のない長周期地震動対策が組み込まれている。

〔写真1〕長周期地震動対策を施した新宿住友ビル
〔写真1〕長周期地震動対策を施した新宿住友ビル
三角平面のコーナー部分に長さ約170mのロッドを設置し、下端部に制振ダンパーを組み込んでいる。敷地全体に「三角広場」と呼ぶガラスのアトリウムを設け、災害時には帰宅困難者を受け入れる(写真:吉田 誠)
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 新宿住友ビルは、外周部の柱や梁が太い外周チューブ構造を採用しており、地震時には建物全体がしなるように曲げ変形が生じる。層間変形で効果を発揮する制振ダンパーだと設置台数が多くなり、執務室への影響が大きく、開口部を塞ぐ必要も出てくる。そこで、全体曲げ変形が卓越するビルの特徴を巧みに利用した制振システムを考案したのだ。

 新たな制振システムは、49階と2階を長い鋼製のロッドでつなぎ、2階部分に制振ダンパーを設置するというもの〔図1〕。ロッドの長さは約170mで、直径は267mm。各コーナーに4本ずつ配置した。ダンパーはロッド1本当たり3基を並列に設置。3コーナーで計36基を設けた〔図2〕。

〔図1〕長さ約170mのロッドで建物頂部と足元をつなぐ
〔図1〕長さ約170mのロッドで建物頂部と足元をつなぐ
制振システム「チューンドマスダンピングロッド」のイメージ。49階と2階をロッドでつなぎ、2階に制振ダンパーを設置する。回転慣性質量付き制振ダンパー(inertial Rotary Damping Tube、iRDT)を使用している。頂部では52階~49階の構造体にロッドの軸力をなめらかに伝達する(資料:日建設計)
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〔図2〕ロッドは平面のコーナー部分に設置
〔図2〕ロッドは平面のコーナー部分に設置
平面のコーナー部分には、設備メンテナンス用のバルコニーがあり、ここにロッドを設置している。各階バルコニーの床に穴を開けて長さ約170mのロッドを貫通させている(資料:日建設計)
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 ダンパーは、軸方向の変形をボールねじによって回転運動に変換する「回転慣性質量付き制振ダンパー(iRDT)」。重りを回転させることで、小さなボリュームで大きな質量効果が得られるメリットがある。

 ダンパーを設置するコーナー部分には設備メンテナンス用のバルコニーがあり、床に穴を開けてロッドを貫通させている。工事自体もゴンドラで実施したため、テナントへの影響は最小限に抑えられた。