この10年間で、東日本大震災が引き起こした様々な建築紛争が裁判所に持ち込まれた。不可抗力による災難だったのか、損失を誰が負担すべきなのか──。問われたのは建築実務者の責任だ。日経アーキテクチュアが追った6つの事件を巡る訴訟から、教訓を読み解く。
設計3社に約7億円の賠償命じる
震度5強程度の揺れで立体駐車場の車路スロープが崩落、2人が死亡した「コストコ多摩境店」(東京都町田市)の事故では、建築士の刑事責任が問われた。
崩落の主因はスロープと建物本体の接合部の強度不足。1審では、設計変更を手掛けた構造設計者が業務上過失致死傷罪で禁錮8月、執行猶予2年を言い渡された。2審・東京高裁は2016年10月、1審判決を覆し、構造設計者を無罪とする判決を下した。検察は上告を断念、判決が確定した。
事故の責任は、民事訴訟の場でも争われた。コストコへの保険金支払いに応じた欧米の保険会社2社が、設計事務所3社と大林組に計約12億5000万円を請求した。東京地裁は19年6月、設計3社の過失を認め、計約7億円の賠償を命じる判決を下した。設計図書通りに施工したとして、大林組は「過失なし」とした。
判決では、構造設計事務所間の調整を怠ったとして意匠設計事務所の過失も認定された。設計変更に関与した発注者の責任も認定し、賠償責任のうち4割を過失相殺した。原告、被告とも控訴した。
20億円請求も設計者・施工者に「過失なし」
東日本大震災では吊り天井の被害が多発した。震度5強の揺れで吊り天井が崩落した「ミューザ川崎シンフォニーホール」(川崎市)の事故は、所有者の市が、設計・施工に関与した都市再生機構や清水建設など8者に約20億円の損害賠償を求める訴訟に発展した。1審・横浜地裁、2審・東京高裁は市側の請求を棄却。市は2019年11月、最高裁への上告を断念した。
裁判の争点は、崩落した吊り天井に設計・施工上の瑕疵があったかどうか。1審と2審の判決は、震災時点で天井に関する法令上の具体的な技術基準がなかった点を重んじ、8者に「過失なし」と判断した。
2018年7月12日号 特集 震災裁判