宮城県石巻市が住宅再建に向けて実施した防災集団移転促進事業の総事業費は約880億円に上る。利便性の良い市街地に整備した団地がにぎわう一方、半島部の高台に点在する小規模団地は苦境に立たされている。
JR石巻駅から車で30分、牡鹿半島の西北に位置する宮城県石巻市渡波(わたのは)の佐須地区。市が防災集団移転促進事業で山林を切り開くなどして整備した半島部46地区のうち、特に事業費が高い団地の1つだ。復興交付金事業計画の進捗状況を基に日経アーキテクチュアが独自に概算した1戸当たりの事業費(住宅の建設費は除く)は、約1億4000万円に上る〔写真1、図1〕。
コストが膨らんだのは、法面などの土木構造物が多いからだ。佐須地区では緑地・法面の面積が団地全体の57%超を占める。巨費を投じたにもかかわらず、空き区画も目立つ。同地区では2016年度に造成を完了したが、住宅が立っているのは全15区画のうち、災害公営住宅4戸を含む7戸にすぎない(21年2月時点)。
佐須地区に限らず、半島部の住宅団地の事業費は1戸当たり平均約6000万円と総じて高コストだ。空き区画も少なくない。被災住民の意向の変化などで使われていない区画は、整備した612戸分(災害公営住宅を除く)のうち80戸を超える。
雄勝地域の高齢化率は約57%
半島部では、東日本大震災前から人口減少と高齢化が進んでいた。このため、高台の小規模団地の持続可能性について危惧する声が当初からあった。案の定、人口減少と高齢化は震災後に加速。最も深刻な雄勝地域の場合、20年3月末時点の人口は1189人、高齢化率(65歳以上の割合)は約57%。11年3月末から人口は3000人超も減り、高齢化率は約18ポイントも上昇した。高台の団地は、早くも存続の瀬戸際にある。
非効率で、将来性に問題を抱える事業はなぜ大々的に展開されたのか。石巻市の防災集団移転に詳しい東北工業大学の稲村肇名誉教授は「被災自治体に全面的に責任を持たせた点に問題があった」と指摘する。
石巻市が整備した住宅団地は54地区、約196万m2、計画戸数2639戸で、いずれも被災自治体で最も多い。復興CM(コンストラクション・マネジメント)方式で負担軽減を図ったものの、住民の住宅再建意向の確認や土地探し、買収交渉などが市職員の肩にのしかかった。一方で、国は自治体に対して事業費の全額を負担する方針を示した。費用がかかってもいいなら、山を削ればいい──。モラルハザードを招いたのは当然の帰結だったと稲村名誉教授は振り返る。