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既存の集落に「差し込む」

 市も手をこまぬいているわけではない。空き区画の解消に向けて20年度から進めているのが、水産事業者の寄宿舎を整備するプラン。石巻市復興事業部集団移転推進課は、「国と協議し、復興に資するとして了解を得た初の試みだ。水産事業者には住民から同意を得るよう求めた。コロナ禍で同意をもらうのに苦労しているようだが、複数箇所で調整が進んでいる」と説明する。

 それでも、一旦大規模な造成をしてしまうと、軌道修正は難しい。そもそも次の巨大災害で、東日本大震災の復興と同様の手厚い財政支援措置を講じる余裕はなさそうだ。

 いかに効率的に移転先を整備するか。参考になるのが、岩手県大船渡市が防災集団移転促進事業で整備した23地区の約半分に採用した「差し込み型」と呼ぶ手法だ。その名の通り、既存集落の付近に土地を確保し、宅地を「差し込む」ように整備する。大規模造成を必要とせず、既存インフラを活用するため安くつく。

 仙台市の市民団体、東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター(以下、みやぎ県民センター)が復興交付金事業計画の進捗状況を基に算出した、大船渡市の差し込み型移転の事業費は1戸当たり3237万円。石巻市半島部の約半分で済んだ〔図23〕。みやぎ県民センターの小川静治事務局長は「石巻は大船渡と異なり、地形的に差し込み型を多用するのが難しい。それでも、もう少しやりようがあったのでは」と指摘する。

〔図2〕整備コストが低い大船渡市の「差し込み型」移転
〔図2〕整備コストが低い大船渡市の「差し込み型」移転
大船渡市の差し込み型は造成地を一部組み合わせたエリアを含む。宮城県女川町は、防災集団移転促進事業を実施した漁村13地区が集計対象。石巻市は日経アーキテクチュアが概算(資料:東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センターの資料などを基に日経アーキテクチュアが作成)
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〔図3〕既存の集落にある空き地などに「差し込む」
〔図3〕既存の集落にある空き地などに「差し込む」
差し込み型の移転を実施した岩手県大船渡市越喜来(浦浜)地区。被災直後と整備後を比較した。大船渡市は防災集団移転促進事業で23地区、366戸の宅地を整備した(写真:上の2点は国土地理院、下は国土交通省)
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 大規模造成に比べて早く整備できるのも特長だ。みやぎ県民センターによると、大船渡市の差し込み型移転の工期は平均209日。全国平均である約580日の半分以下だ。

住民が自ら地主と交渉

 大船渡市に差し込み型の移転を提案したのが、防災科学技術研究所の佐藤隆雄客員研究員。市復興計画推進委員会の委員などを務める。

 大船渡市出身の佐藤客員研究員は震災直後、同郷の友人と東京から物資を届けたのをきっかけに、市の支援を始めた。地元を見て回るうちに、津波の被害を免れた集落の周辺には、空き地や耕作放棄地があることに気づき、差し込み型を提案した。

 佐藤客員研究員の提案などを踏まえて差し込み型の移転を採用した大船渡市。その実施体制もユニークだ。「行政主導の石巻などと異なり、どの場所に誰と移転したいかを住民自身に決めてもらった。さらに移転候補地の土地所有者との交渉の一部も住民に委ねた」(佐藤客員研究員)

 地元をよく知る住民が土地を探せば効率的。住民同士で売買交渉をすれば、地主が値段をつり上げるようなことも起こりにくい。佐藤客員研究員は「売ってくれるかどうかの意思確認までは住民が自ら実施し、最終的に市が買収した。これも安く上げられた理由の1つだ」と説明する。

 住民の負担はもちろん、サポートする市の労力もかなりのものだ。そこで、被災地の支援に駆け付けた大学や、佐藤客員研究員が事務局次長を務める災害復興まちづくり支援機構などが住民の活動を後押しした。同機構は弁護士や司法書士、不動産鑑定士などの団体を会員に抱える。

 佐藤客員研究員は、将来の発生が見込まれる巨大災害の復興でも、差し込み型が有効だと説く。「行政が被災した住民に再建を任せるスタンスが重要だ。平時から住民が主体的に動ける素地をつくり、そのためのサポート体制をどのように構築するかが課題になる」(佐藤客員研究員)