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東日本大震災の被災地に建設された巨大な防潮堤。街と海を分断する存在として批判されることが少なくない。防潮堤と街づくりは、両立し得ないのか。宮城県気仙沼市の大谷海岸の取り組みを追った。

 2月中旬、宮城県気仙沼市の有名な海水浴場、大谷(おおや)海岸では2021年夏の海開きに向けて、防潮堤の建設が急ピッチで進んでいた〔写真1〕。

〔写真1〕砂浜を保存して防潮堤を建設
〔写真1〕砂浜を保存して防潮堤を建設
宮城県気仙沼市の大谷海岸で建設中の防潮堤。当初の位置からセットバックし、砂浜を保存した。背後地では街づくりが進む。左端の建物は3月に開業予定の道の駅。敷地内にBRTの駅を移設する(写真:村上 昭浩)
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 大谷海岸は、名物の砂浜を保全するために、防潮堤の位置を当初計画から陸側に後退させたのが特徴だ。住民が主導し、行政と対話しながら防災と街づくりの両立を実現した。

 セットバックした防潮堤は延長677m。かさ上げした国道45号との兼用堤とし、県が整備を進めている。防潮堤の背後地のかさ上げや街づくりは気仙沼市が担う。整備面積は約4万m2。3月には新たな道の駅が開業する予定だ〔図1〕。

〔図1〕住民の要望を反映した配置に
〔図1〕住民の要望を反映した配置に
大谷海岸の完成イメージ図。国道と堤防が一体化している(資料:宮城県気仙沼土木事務所)
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L1津波を防ぐ防潮堤が物議

 東日本大震災の復旧・復興では、数十年から百数十年に1回の頻度で発生する津波(L1津波)を防潮堤で防ぎ、数百年に1回の最大クラスの津波(L2津波)はハードとソフトの対策を組み合わせた「多重防御」で対応する方針を国が示した。

 これを基に、場所によっては高さ10mを超える防潮堤が計画された。東日本大震災の被災6県で計画された海岸堤防などの延長は計約432km。20年9月末時点で8割が完成している。

 海岸の景観を一変させる防潮堤の建設を巡っては、各地で議論が沸騰した。巨大津波による被害が実際に起こった以上、安全性を確保するために一定の基準を示すのは必要なことだろう。問題は、多くのケースで地域の事情や特性をうまく反映できなかったことだ。

 生態系を生かした防災・減災に詳しい森林研究・整備機構の中静透理事長は、「住民の意向を十分に聞けず、合意を得る努力も満足になされない自治体が多かった。そんななか、大谷海岸は砂浜を残して景観を守った数少ない事例だ」と指摘する。