東日本大震災で注目されたのが、将来の巨大災害に備えて、前もって計画をつくる「事前復興」の考え方だ。しかし、多くの自治体は検討に着手できていない。検討が進まない要因を検証しながら、今後の道筋を探る。
五ケ所湾に面して広がる市街地が見えなくなるまで山沿いの県道を上った高台に、南伊勢町立南伊勢病院はある。海抜10mの市街地から移転して2019年11月に完成したこの病院は、三重県南伊勢町が事前復興の考え方に基づき、災害時でも機能継続できるように整備したものだ。
事前復興とは、将来の災害に備えた防災街づくりと、被災後の早期復興に向けたソフト対策の検討を一体的に進める考え方だ。東日本大震災の被災地で、住宅の移転先探しなどに時間を要した反省を踏まえてクローズアップされた。
南伊勢町は三重県の中南部に位置し、南側をリアス式海岸、北側を山林に囲まれている〔写真1〕。南海トラフ地震の津波で甚大な被害が予想される「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」に指定されており、事前復興に熱心に取り組んできた。
小山巧町長は、「被害を最小限に抑えることを目指して、まずは消防署や病院、要配慮者利用施設といった重要な公共施設の高台移転の検討を12年ごろから始めた」と語る〔図1〕。南伊勢町がこの10年間で移転した施設の事業費は計約40億円に上る。これらの事業には合併特例債や過疎対策事業債を活用した。
町は17年に事前復興の計画作成に着手。集落ごとに避難時の行動などを定めた「地区防災対策行動計画」を作成するなど、ソフト面の防災対策も進めている。小山町長は「居住地は町域の約1%しかない。山は岩盤で造成しにくく宅地の高台移転は難しいと判断し、避難で対応することにした。今後は、町の復興手順について議論したい」と意気込む。