改正建築物省エネ法の目玉である省エネ性能の説明義務制度が2021年4月に開始される。設計事務所や住宅会社では体制の整備が急務。説明不足や評価ミスに起因するトラブルも予想される。義務化直前に、改めて制度の重要なポイントや、準備に必要なノウハウなどをおさらいしよう。
説明の手順
4つのステップで省エネ性能を評価・説明
説明義務制度は、床面積300m2未満の建物を設計した建築士が建築主に省エネ性能などを説明するよう定めたものだ。2021年4月以降に設計契約を結んだ住宅・非住宅の新築と増改築が対象になる〔図1〕。設計事務所の他、外部の建築士に建築確認申請手続きの代願を頼んでいる住宅会社なども体制の見直しが必要となる。
匠総合法律事務所の秋野卓生弁護士によると、外注建築士は建築主と設計契約を結んでいなくても、確認申請書には外注建築士の名義で設計する旨が記載されているため、説明義務を負うことになるという。
説明義務制度は、設計した建築士に説明義務の責任を負わせることで、建築士法に基づく処分を組み込んだ。違反した場合に適用される規定は建築士法10条1項。対象となる建築関係法令に違反した建築士を戒告や1年以内の業務停止、免許取り消しのいずれかに処せる懲戒規定だ。
説明の手順は4段階〔図2〕。ステップ1で省エネ性能の「情報提供」、2で省エネ性能の評価の要・不要に関する「建築主の意思確認」、3で「省エネ性能の評価」、4で「評価結果の説明」という流れだ。評価で不適合が判明した場合は、適合させるために必要な措置を伝える必要もある。
意思確認や評価結果の説明は書面で残さなくてはならない。その写しは建築士法で保存義務を課した図書に位置付けられる。建築士事務所に15年間保存しなければならず、都道府県などが立ち入り検査をする際のチェック対象となる。省エネ計算書自体は保存対象ではない。
設計・施工一括で契約を結ぶ住宅会社の場合、契約後に省エネ性能の評価に進むと考えられる〔図3〕。契約前の段階ではおおよそのプランを示して契約後に確定する場合が多く、省エネ性能はプランが確定しないと正確に評価できないためだ。
しかし、そうした一連の作業に設計者が対応するのは容易でない。省エネ性能の指標は省エネ基準だけでなくZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)など様々ある。建築主からそれぞれの建設費とランニングコストを聞かれるのは必至だ。契約前に建築主が要望する省エネ性能のプランを示した上で、契約後の評価で不適合を出さない工夫が求められる。
省エネ住宅の申請サポート業務などを手掛けるフォワードハウジングソリューションズ(神戸市)の長崎弘志東京支店長が勧めるのは、契約前はプランごとの省エネ計算をせず、モデルプランで事前に算定した省エネ性能や建設費、ランニングコストを参考資料として例示することだ。
他にも、サポート業務を手掛けるイエタス(東京都千代田区)開発本部の西山博開発部長は、床面積とLDKの面積割合の異なるタイプごとに、省エネ基準とZEHのそれぞれに適合する仕様で平均的な建設費とランニングコストを算出しておくことを勧める。
同じくサポート業務を手掛けるエコ住研総合設計(千葉県柏市)の増田幸之助COO(最高執行責任者)は、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS(ベルス))の申請経験がない設計者の場合、既製プランで実際に申請してみることを勧める。BELSは補助金の申請にも役立つ上、第三者機関の審査を受けることで評価の正しさを客観的に示せる。