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急転直下に思えるカーボンニュートラル宣言。だが、産業界の一部は“グリーンバブル”を予兆していた。コロナ禍にあえぐ世界経済の救世主として、海外では環境関連投資が2020年夏から活発化していたからだ。国内の大手住宅会社は集合住宅のZEH化や、再生可能エネルギー電力利用に積極的に乗り出している。

 2020年7月、欧州連合(EU)は新型コロナウイルスによる景気後退対策として、「欧州復興基金」を創設した。総額7500億ユーロ(約94兆円)に上るその基金は、約3分の1を気候変動対策に充て、「グリーンリカバリーファンド」とも呼ばれる。世界中の投資家が、グリーンリカバリーという単語と共に「脱炭素」に注目したのは、この基金がきっかけだった。

 そして20年10月、菅義偉首相が2050年カーボンニュートラル宣言を出し、12月に政府が「グリーン成長戦略」を発表。長期ストックとなる住宅・建築物を「早急に取り組むべき分野」として位置付けた。期待されるのがZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のさらなる普及だ。

 「CO2排出削減の取り組みと企業の経営は両立できる」。積水ハウス環境推進担当の石田建一常務はそう断言する。同社は、戸建てZEHの建設が累積5万棟(19年度)を超える。15年~19年でCO2排出量2割減、売り上げ13%増の実績を出した。

 「次は賃貸ZEHの市場をつくり出したいと考えている」と、石田常務。国内の住宅からのCO2排出量割合を見ると、最も多いのが戸建て住宅で、賃貸集合住宅は次いで約23%を占めるからだ〔図1〕。

〔図1〕CO2排出量2割を占める賃貸集合住宅
〔図1〕CO2排出量2割を占める賃貸集合住宅
住宅からのCO2排出量割合で、賃貸集合住宅は2割を占める。総務省の「平成30年度住宅・土地統計調査」と環境省の「平成30年度家庭部門のCO2排出実態統計調査」から推計した(資料:総務省と環境省の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 しかし、賃貸ZEHの展開は容易でない。集合住宅のZEH-M(ゼッチ・マンション)は18年に国が住棟単位、住戸単位でそれぞれ定義、評価を分けて普及を目指しているが、30年目標までの道のりは険しい。

 加えて賃貸の場合、入居者が求める条件は築年数や交通利便性などが上位にくる。オーナーが太陽光発電(PV)などの設備投資をしても、賃料で回収できるか不確実だ。

 そこで積水ハウスは、PVを各戸に割り当てて接続し、創出した電力を入居者がそれぞれ売っても、消費してもいい仕組みを推奨している〔写真1〕。オーナーが一括売電する形と比べると、入居者がZEHで暮らすことのメリットを体感しやすい。

〔写真1〕賃貸ZEHに力を入れる積水ハウス
写真は同社がさいたま市に建設したシャーメゾンZEHの外観(写真:日経アーキテクチュア)
写真は同社がさいたま市に建設したシャーメゾンZEHの外観(写真:日経アーキテクチュア)
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屋上に設置した太陽光発電(写真:積水ハウス)
屋上に設置した太陽光発電(写真:積水ハウス)
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積水ハウスはシャーメゾンブランドで賃貸ZEHを展開。ZEH化するにも4階建てぐらいまでが適正規模だという

 「ZEH化した場合、1戸当たり80~90万円のコスト増となる。だが、集合ZEH-M286戸を対象とした調査によると、入居者ごとの売電形式であればオーナーは相場より月平均5000円高く賃料収入を得られることが分かった」と石田常務は言う。

 最近では、光熱費削減だけでなく、PVや蓄電池完備で非常時対応しやすいことも入居者にとって大きなメリットとなっている。