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米カリフォルニア州が新築住宅の太陽光発電(PV)設置を義務化して1年がたつ。同州は、早くも次の目標である「オール電化」導入に向けて動き始めている。住宅関連の規制強化で「脱炭素社会」の構築を急ぐ世界の動きは、日本の建築界にも参考となる。

(写真:カリフォルニア州エネルギー委員会)
(写真:カリフォルニア州エネルギー委員会)
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 世界でも環境政策の先頭を走る米国カリフォルニア州。2020年1月に新築住宅への太陽光発電(PV)設置を義務化してから1年以上が経過した。45年に完全脱炭素化を目指す同州は、次の目標である「オール電化」に向けて既に動き始めている。

 カリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)は21年2月、22年に更新する建物の省エネ基準においてオール電化住宅を優遇する改定案をまとめた。新築住宅のエネルギー効率に関する基準値の設定を見直し、住宅建設会社にオール電化の住宅を建てるインセンティブを与える計画だ。ガス暖房のみの住宅を建設する場合には追加のエネルギー効率対策を求め、オール電化がコスト面の比較で見劣りしないようにする。

 長期的な狙いはガスの廃止だ。現状では、オール電化の要となる暖房用電気ヒートポンプの州内シェアは5%にとどまり、コスト優位のガス暖房が圧倒的多数を占める。

PV義務化は費用対効果が鍵

 クリーンエネルギーへの切り替えは一朝一夕では進まない。PV義務化は州内で建築許可申請をした新築戸建て住宅と、3階建てまでの低層集合住宅を対象として、20年1月に施行された。CECで建物の省エネ基準部門を統括するウィル・ビンセント氏は、「PV設置の費用対効果が見込めるようになったからこそ、義務化という選択ができた」と振り返る。

 同州では06年以降、消費者と事業者の双方に補助金や税優遇などの施策を講じ、PVの導入を加速させてきた。市場の拡大は設備のコストダウンにつながり、07年に約11ドルだった発電容量1ワット当たりに必要な住宅用設備費用は、今では4ドル近くを推移している〔図1〕。

〔図1〕住宅用PVの総発電容量は5年で3倍に
〔図1〕住宅用PVの総発電容量は5年で3倍に
発電容量1ワット当たりの住宅用設備費用は2007年に約11ドルだった。近年は4ドル近くを推移。20年の数値は11月末までの集計値(資料:カリフォルニア・ソーラー・イニシアチブのデータを基に日経アーキテクチュアが作成)
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 カリフォルニア建築産業協会の技術責任者、ロバート・レイマー氏は「19年には新築のPV導入率が30%に達し、州内の施工会社も新技術の経験を積んでいた。事前の普及フェーズがなければ、義務化へのスムーズな移行はできなかった」と指摘する。

 CECによると、PV設置に伴う追加コストは維持費も含めて新築住宅1件当たり約9500ドル。ただし、導入後の約30年間を通じたエネルギーコスト削減効果は1万9000ドルに達する算段だ。

 新基準の下で建築許可申請をした住宅が完成してくるのは21年度以降。その頃には、住宅用PVの市場規模が4倍以上に膨らむとの見立てもあり、さらなる低コスト化につながる好循環に期待がかかる。