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 英国ノリッジ 
パッシブハウスの公営住宅

 2019年10月、王立英国建築家協会(RIBA)がその年最も優れた建築に贈るスターリング賞の発表に、英国の建築業界は大いに沸き立った。受賞したのは、英ノリッジの公営住宅事業「ゴールドスミス・ストリート」〔写真1〕。同賞の歴史上初めて、公共の住宅事業が選ばれたのだ。

〔写真1〕パッシブ化費用は1割強
〔写真1〕パッシブ化費用は1割強
設計は英国の設計事務所ミカエル・リッチェス、施工は英RGカーター。英ワーム(WARM)がパッシブハウスのアドバイザーを担当した。総工費は1470万ポンド(約22億円)。1m2当たりの建設コストは1875ポンド(約28万円)。このうちパッシブハウス化に伴う費用は10~15%を占めるという(写真:ミカエル・リッチェス / ティム・クロッカー 2019)
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 公営住宅は、低所得者層向けの高密住宅地を設ける市直轄の再開発事業として、18年に竣工した。約8000m2の敷地に、戸建て45戸と集合住宅60戸を建設。東西方向に住居が並ぶブロックを7つ平行に配置し、生活道路や緑地を整備した。

 注目は各住戸のエネルギー効率の高さだ。いずれもドイツ・パッシブハウス研究所が規定する性能基準を満たす証「パッシブハウス認定」を獲得している。建物の外壁は600mm以上と分厚く、内部にセルロースファイバーを隙間なく充填してある。壁の熱貫流率U値は0.11W/m2Kと、極めて高い断熱性能を実現した。

 南北に非対称な屋根は北側を長くして、緩やかな15度の勾配をつけている。14m離れた南後方の住宅に屋根の影が落ちず、より長い時間日光が当たるようにした〔図1〕。

〔図1〕屋根の角度で太陽光を調節
〔図1〕屋根の角度で太陽光を調節
南北の住戸間でそれぞれの影が太陽光を遮らないように配慮。庭や約14m幅の道路を考慮して屋根勾配を設定した。図の右方向が南(資料:ミカエル・リッチェス)
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 19年スターリング賞のジュリア・バーフィールド審査員長は、完成した住宅地を「つつましい傑作」と評した。「環境問題と社会問題の両面について、最も素直な形で配慮した高品質な建築。魅力的かつ広々とした省エネルギー住宅は今後、あらゆる公営住宅整備が規範とすべきだ」(バーフィールド氏)