脱炭素達成のカギを握るのが技術だ。コンクリートや断熱材といった素材の他に、AI(人工知能)制御の活用も急がれる。世界に取り残されないためには、競合同士でも連携し、業界を挙げて一気に開発スピードを早めていく必要がある。
環境配慮型コンクリート
集合住宅のCO2削減に期待
横浜市で2021年2月に完成した「ルネ横浜戸塚」は、テレワーク利用も想定した共用ラウンジが評価され、20年度のグッドデザイン賞を受賞したマンションだ〔図1〕。ラウンジは中庭に面し、中庭回廊には建て主の長谷工コーポレーションが独自開発した環境配慮型コンクリート「H-BAコンクリート」を用いた〔写真1〕。H-BAを使うと、コンクリート由来のCO2排出量を約8.2~18.5%削減できるという。
太陽光発電など創エネ設備を置きにくい集合住宅では、使用するコンクリート自体を環境配慮型にする試みが出てきている。ライフサイクルでCO2排出量を抑える狙いだ。
環境配慮型コンクリートは、焼成時にCO2を排出する一般的なセメント(ポルトランドセメント)に替えて、製鉄所の産業副産物である高炉スラグなどを混合した高炉セメントを使うコンクリートを指す。スラグ分量が多いほどCO2排出抑制効果は高いが、地上構造物の施工が難しいなど、用途が限定される。逆に、スラグ割合が少ないタイプは、性状や施工法は一般のコンクリートと同じで、建築施工の汎用性が広い。
長谷工コーポレーション技術研究所の金子樹研究員は、H-BAの開発に至った経緯を次のように語る。「スラグ分量が少ない高炉セメントA種は、CO2排出抑制効果は小さい。それでも、供給量が多い集合住宅の構造物に使えば相当量のCO2が削減できる。現状では、A種の生産・流通はゼロに近い。そこでポルトランドセメントと一般に流通する高炉セメントを混合し、スラグ分量を調整して、高炉セメントA種同等の性質を有するコンクリート開発に挑んだ」
一般的な高炉セメントを使ったコンクリートは地下構造物に、A種同等のH-BAを上部構造物に適材適所で採用。使い分けることでCO2排出量削減を目指す。
普及に法的課題も
課題は住宅品質確保促進法(品確法)での扱いだ。住宅性能表示の劣化対策等級の評価には、躯体に使うコンクリートの基準がある。環境配慮型コンクリートの扱いは明確に示されていないため、住宅性能表示の適用を目指した「ルネ横浜戸塚」では中庭回廊への限定使用となった。
環境配慮型コンクリートの開発は大手建設会社を中心に各社がしのぎを削る。鹿島などが開発したのは、大気中のCO2を吸収し硬化する「CO2-SUICOM(スイコム)」。大成建設は、工場の排気に含まれるCO2を原料とした炭酸カルシウムを使い、CO2収支をマイナスにする「T-eConcrete/Carbon-Recycle」の技術を21年2月に発表した。さらに1月、大成建設は環境配慮型コンクリートの普及に向けて、建築資材メーカーなど計9社が参画する研究会を発足するなど広がりを見せている。