政府や企業がカーボンニュートラルに向かってアクセルを踏む状況に、省エネの専門家は何を思うのか。2021年4月に省エネ性能の説明義務化が始まることもあり、省エネ基準適合義務化には賛否両論ある。コロナ禍の影響も踏まえつつ、住宅業界の現況整理や課題の棚卸しが急がれる。
まずは従来施策の効果検証を
政府は2050年までの温暖化ガス排出量の削減目標を80%から100%へと引き上げた。しかし、慌てる必要はない。IEA(国際エネルギー機関)の方針では温暖化ガス削減の多くをCCS(二酸化炭素回収貯留)に依存しているが、これは研究段階の技術だ。カーボンゼロの技術はまだ出そろっていない。
現時点で必要なのは、省エネに関する届け出義務や説明義務といった施策がエネルギー消費量低減にどの程度効果をもたらすかの具体的な検証だろう。住宅の脱炭素化に要する時間と手間は価格に転嫁される。適切な評価を踏まえた上で、アクセルとブレーキをバランス良く踏んでいくことが大切だ。
今ある物差しを使いこなす
パリ協定に基づく最終エネルギーの削減目標は、住宅の場合「30年度に13年度比で27%減」。19年度の速報値では、最終エネルギー消費量は11.3%の削減となり、目標に向けて順調に推移している〔図1〕。
13年の改正省エネ法施行を境に住宅のエネルギー消費量が順調に減ってきた背景には、省エネを評価する“物差し”の普及がある。物差しとなる「エネルギー消費性能計算プログラム」は計算の根拠をオープンにしており、実務の場でも一定の信頼を得ているという手応えを感じる。
住宅内のエネルギー消費量を削減するための技術は既に定番化している。残る問題はコストだ。ZEH化に伴う工事費の増額分と、住んでからかかる光熱費の低下分を比べて10年で元が取れるようになれば、補助金がなくてもZEHは自然に普及していく。こうした検討の出発点となるのが、今ある物差しを使った建物の省エネ評価だ。設計者はぜひ使いこなしてほしい。(談)
建築研究所理事
