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建築物・内装の意匠権は、建築設計の実務上、どのような存在となるのか。3つの疑問点をTMI総合法律事務所に所属する弁理士・弁護士に聞いた。

(写真:日経アーキテクチュア)
(写真:日経アーキテクチュア)
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左:佐藤 力哉(さとう りきや)1977年生まれ、慶応義塾大学法学部法学科卒、2005年に弁護士登録、07年からTMI総合法律事務所勤務
中央:茜ヶ久保 広二(あかねがくぼ こうじ)1977年生まれ、慶応義塾大学文学部哲学科卒、2002年に弁理士登録。13年からTMI総合法律事務所勤務
右:富田 裕(とみた ゆう)1965年生まれ、東京大学大学院建築学専攻修了。磯崎新アトリエなどを経て2008年に弁護士登録、12年からTMI総合法律事務所勤務

Q 意匠権の「権利者」は誰か?

富田 出願ができるのは、意匠法の法文上は「意匠の創作をした者」(意匠法3条)、つまり設計者だ。発注者が権利者となった意匠登録は、法律上、創作者である設計者から権利譲渡を受けていることになる。

 ただし、四会連合協定建築設計・監理等業務委託契約約款では意匠権の扱いを受発注者間の「協議事項」と定めている。この場合、設計者が協議しないで無断で出願を行えば契約に反する。成果物を受け取った発注者側も同様だ。

佐藤 コンペ案などのデザインが、他の設計者の手に渡って、当初設計者には無断で実施に至る例が現実にある。だがこれまで、建築物や内装デザインの権利保全は難しかった。

 オフィスレイアウト設計を巡ってコンペ案盗用が争われた事例(東京地方裁判所2003年2月26日判決)では、原告が提出した設計図に関わる著作権侵害、不正競争防止法違反、コンペ実施者の守秘義務違反を裁判所が認めず、盗用を訴えた原告の請求を棄却した。

コンペ案盗用は現実にある

 デザインを守るためにはコンペ応募前に意匠登録出願を行うのも有効だ。権利譲渡がコンペの参加要件なら、採用時に譲渡すればよい。「先願」は意匠法の必須要件なので、権利保全を目的とするなら出願タイミングは応募前がベストだ。

茜ヶ久保 コンペ応募前の出願では「秘密意匠権」(登録後3年に限って内容を隠した意匠権)の活用も視野に入るだろう。秘密意匠権は一定の制限があるものの、秘密状態でも権利行使自体はできる。

 例えば自動車業界では、先行開発が済んだ発表前のプロダクトを秘密意匠とする場合がよくある。発売前に屋外で走行テストを行う際、その模様が撮影されて公開される場合があるためだ。この場合、公開情報が公知資料となって新規性などの要件を満たさなくなってしまうという事情がある。

 建築設計においても同様に、コンペ審査期間中は秘密意匠としておけば、応募作を非公開としたまま設計者が権利を保全できる。これまで建築デザインの権利は不確かだったが、新たに意匠権という確かな権利ができ、一定の防御方法となったと言える。