不動産主導の意図的なまちづくりから、空き家などを活⽤した偶発が連鎖するセレンディピティなまちづくりへ舵(かじ)を切れば、失敗の少ない持続可能なビジネスが可能になる──。そんな観点から、まちづくりの最新事例のビジネスモデルや⼈的ネットワークを読み解く。
これまでのまちづくりでは、箱モノ重視で、完成した施設があまり使われない例も数多く見られた。その反省から、昨今は、行政や民間事業者が、施設運用まで見据えた開発を計画。まちの価値向上につなげる例もある。エリアマネジメントの発想だ。
しかし、持続可能へのアプローチを試みながらも、失敗する例もあれば、一方で偶然が重なってうまくいっているように見える例もある。
そこで、本連載では、その失敗や偶然の裏側にあるビジネスモデル、人的ネットワークに共通する構造を類型化しながら、具体例を通じて、これからのまちづくりにおける、ビジネスの可能性を探っていきたい。
昼は子ども、夜は大人が集う
下の写真1は、東京都西東京市の西武柳沢駅の駅前商店街にある「ヤギサワベース」という施設だ。
グラフィックデザインを手掛ける中村晋也氏が自身のオフィスと兼ねる形で、子どもたちの居場所づくりのために駄菓子屋を営む。子どもたちは駄菓子を買った後、奥のテーブルを囲んでゲームをしながら過ごす。
夜には同じスペースに商店街の人たちが酒を持ち寄って駄菓子を食べながら集会をするなど、地元の日常の場として活用されている〔写真2〕。

中村氏は、「地縁もなく偶然引っ越したこの地で、偶然あった空き店舗で、仕事の合間に偶然始めた駄菓子屋がうまくいって、少しずつ拡張しただけだ」と言う。
しかし、本件以外でも、小さいながらもまちとつながるビジネスを継続して行っている例を掘り下げていくと、このような偶然をつかみ取る能力=セレンディピティが高いことが共通点として見えてきた〔図1、2〕。
第1回は、建築設計者にも身近な例を通じて、セレンディピティがどうビジネスを生むのかを見ていこう。