有効利用されていない都市部の農地は多い。最近は、そこでのコミュニケーションを通して、福祉事業者や地域との連携、副業としてなど、農業生産にとどまらない価値が生まれている。空き家、空き地対策や都市防災などにもつながる農地活用の可能性をみていく。
大都市の生産緑地では、農業からの収益を得るためではなく、各種税務メリットのために営農している事例が散見される。相続人は営農をすることが求められるが、相続のタイミングで農業を継げなくなり、アパート経営を始めるなど、都市部の農地は減少傾向が続いている。
国は農地を維持していこうと、2018年に都市農地貸借法を施行。生産緑地を賃貸しても税務メリットを享受できるようになった。そのため、就農したい若者が土地を借りたり、貸農園を開設したりする例も出てきた。都市における農地は、農業生産だけでなく、農を通じた交流や学習、コミュニティーづくりの場、また地域行事の開催の場や災害時の避難スペースにもなりつつある。
さらに、都市緑化に寄与するなど、都市生活を支える多様な活用の可能性が高まっている。特に農業と福祉が連携(農福連携)することで、障害者や高齢者などが農業に関わりながらお互いにメリットを享受する活動が盛んになっている。
今回取り上げる2つの事例は、農福連携をさらに一歩進めている。生産緑地ではない土地で農業を行いながら、農業を通じて様々な人たちと地域のコミュニティーの拠点となる活動を行っており、結果として本業にも好影響を与えている。
地域のつながりが市民農園に
市民農園「みんなの畑」の運営を担う西東京農地保全協議会(ノウマチ)で事務局長を務める若尾健太郎氏は、大学卒業後、青年海外協力隊に参加してグアテマラで農業支援を行った。帰国して農業関連のNPOに勤務した後に独立、まちづくりコンサルタントとして東京都西東京市のひばりが丘でエリアマネジメント団体の運営支援に関わっていた。
農業中心のコミュニティーをつくりたいと思っていたところ、地域FM局であるFM西東京が主催する交流会で、ナチュラルスタンスの岩崎智之氏と知り合った。
地域でデイサービスなどの介護事業をしていた岩崎氏は高齢者の活動の場として農業の可能性がないかと考えており、若尾氏と意気投合した。当初は農地を一時的に借りて農業体験イベントを行ったものの居場所として定着させることができず、長期にわたって使える農地を探すのに苦労した。
ようやく、岩崎氏の知り合いである地主の厚意により、宅地化農地(生産緑地ではない特定市街化区域農地)となっていた約750m2の土地を無償で借りて2016年4月から市民農園活動を開始した〔写真1、2〕。