床を抜いて空間に広がりを持たせる吹き抜けは、意匠設計者にとってデザインの見せ場だ。一方、構造設計の面では注意が必要になる。壁量設計では大きな吹き抜けを想定しておらず、構造計算で確認したい。(日経アーキテクチュア)
従来、地震や強風時の床や屋根の強度は、あまり重要視されてこなかった。床は、家具や人などの鉛直荷重を支える部材と考えられてきたためである。また、地震でも、床や屋根が原因で倒壊するものはほとんどなかったことが理由に挙げられる。
しかし、現代の住宅では、床や屋根といった水平構面の面内に生じる強度を検討する必要性が増している。理由は大きく3点ある。
第1は、壁量設計や構造計算は、水平力が加わった時、床面は剛性が高く変形しないことが前提となっているからだ。床面が柔らかいと、床を支える耐力壁線ごとに、大きく変形したり小さく変形したりする通りができてしまう〔図1〕。そうなると、「耐力壁の強度の合計で建物の耐力を推定する」という「耐力壁構造」の根本の考え方が成り立たなくなってしまう。
第2は、耐力壁の性能が上がって、相対的に水平構面の弱さが目立ってきたことがある。従来、床のくぎ打ち間隔などはあまり気にしていなかった。また、壁は両側に面材が張られるのに対して、水平構面は上側1面にしか面材がない。床の方が、せん断耐力が低いのも納得できる。
第3は、大きな吹き抜けのある建物が増えてきたことだ(上の写真)。吹き抜けは「床面に開いた大きな穴」なので、吹き抜け周辺の床には、他よりも大きな力が加わる。
例えば、東西に長い長方形の平面形状をした住宅を想像してほしい。南側に吹き抜けがあり、北側に階段があると、2階床面は東西に分かれていて、それを細い廊下でつなぐ形になる〔図2〕。この細い廊下は壁配置によっては、他の床部分の何倍もの力が加わる可能性があり、相当に強度を上げておく必要がある。
壁量設計を含む建築基準法の仕様規定では、そうした大きな吹き抜けは想定していないので、構造計算で確かめることが望ましい。