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首長の交代に伴い、前任者が進めてきた公共事業の見直しを表明するも、新たな道筋を描けず事業が迷走──。コロナ禍が選挙にもたらした変化によって、このような炎上案件が従来よりも増える恐れがある。

 「公約を信じて、重い1票を投じた者に対する裏切り行為」「詐欺的公約と言っても過言ではない」。これは滋賀県野洲市に市民が寄せた栢木(かやき)進市長へのメッセージの一部だ。

 市民が激しい怒りをあらわにするのには理由がある。2020年10月18日の市長選で掲げた「目玉公約」を、栢木市長がほごにしたからだ。目玉公約とは、総事業費約120億円に上る市立野洲病院の移転計画に関するもの。元市議の栢木氏は選挙期間中、当時の山仲善彰市長が推進していた駅前の市有地への移転計画に異議を唱え、「半分程度の事業費で、運営しながら現地建て替えできる」などと訴えて初当選した〔写真1〕。

〔写真1〕混迷を極める市立野洲病院の建て替え
〔写真1〕混迷を極める市立野洲病院の建て替え
現在の市立野洲病院は東館、西館、北館から成る。6階建ての東館は老朽化に加えて耐震性能に問題があり、過去の耐震診断ではIs値(構造耐震指標)が0.6を下回る階が複数あった(写真:日経アーキテクチュア)
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 19年に市立病院になった野洲病院はもともと民間病院だったが、施設の老朽化対策や耐震化を自力で実施するのが財政的に難しいことから、市が新たな施設を整備する方針を13年に示した経緯がある。

 しかし、巨額の事業費への批判は根強く、市議会は病院関連の議案を幾度も否決。建設コストの高騰で工事入札が不調になり、実施設計を修正しているさなかに、栢木氏の公約が市民の心をわしづかみにした。

 栢木市長は初登庁日の20年11月2日、佐藤総合計画に対して修正設計業務の一時中止を通知。21年1月14日から、有識者による野洲市民病院整備運営評価委員会で、公約の実現可能性を検証し始めた〔図1〕。

〔図1〕就任から半年も経たないうちに目玉公約をあっさり断念
〔図1〕就任から半年も経たないうちに目玉公約をあっさり断念
契約解除になった修正設計業務の契約金額は約4455万円(税込み)。市は2020年11月2日までの成果に対して約3197万円(税込み)を佐藤総合計画に支払う(写真・資料:左の写真は日経アーキテクチュア、それ以外は野洲市)
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 順調に進むかに見えた計画見直し。しかし、事態は急転する。3月1日、評価委員会が「技術的に不可能ではないが、医療を継続しながらの現地建て替えは課題が多い」などと報告したのだ。これを受けて栢木市長は3月16日の市議会特別委員会で現地建て替えの断念を表明した。

 栢木市長は日経アーキテクチュアの取材に「苦渋の選択をすることとなり、市民に大変申し訳なく思う」と答えるが、市民の怒りは謝罪では収まりそうもない。そもそも中止した移転計画は、16年に当時の評価委員会が現地建て替えは困難だと結論を下したことを受けて進めたもの。栢木市長は公約について「病院や建築の専門家と調査・検討して示した」とするが、半額での現地建て替えが根拠の薄いものであった点は否めない。