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現庁舎の老朽化や耐震性の不足などを背景に、鹿児島県垂水市が進めてきた総事業費約43億円の庁舎移転計画が暗礁に乗り上げた。住民投票で、事業規模とともに争点となったのは、敷地の浸水リスクだった。

 「海沿いの敷地に対して反対派の市民が抱いていた懸念を払拭することは、最後までできなかった」。残念そうに語るのは、宇住庵設計(鹿児島県鹿屋市)の瀧晃部長だ。同社が代表を務める設計JV(共同企業体)は2018年9月、設計者選定プロポーザルに勝利。垂水市新庁舎の設計に取り組んできた〔図1〕。

〔図1〕住民投票の結果を受けて垂水市庁舎の移転を白紙撤回

計画では、鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造、地上4階建て、延べ面積約5900m<sup>2</sup>の庁舎になる予定だった。三角形の角を落とした平面が特徴だ。設計者は宇住庵設計・NKSアーキテクツ・大隅家守舎JV(共同企業体)
計画では、鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造、地上4階建て、延べ面積約5900m2の庁舎になる予定だった。三角形の角を落とした平面が特徴だ。設計者は宇住庵設計・NKSアーキテクツ・大隅家守舎JV(共同企業体)
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基本設計時点のイメージ(資料:垂水市)
基本設計時点のイメージ(資料:垂水市)
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 新庁舎の敷地は、老朽化した現庁舎から400mほど西に位置する海沿いの旧フェリー駐車場用地〔図2〕。津波による浸水は想定されていないものの、市内を流れる本城川の洪水で最大0.8mの浸水が見込まれる。市内では大雨で道路が冠水することもよくあるため、防災上の不安から移転に反対の声が上がっていた。

〔図2〕「海沿いの敷地」に反対運動
〔図2〕「海沿いの敷地」に反対運動
垂水市は3つの候補地から海沿いの「旧フェリー駐車場用地」を選んで計画を練り上げたが、浸水エリアに含まれることから反対が根強かった(写真:国土地理院、垂水市)
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 そこで実施設計では、現在の海抜2.2mから海抜3.1mまで地盤をかさ上げし、浸水しても耐震性能を発揮できる柱頭免震構造を採用。さらには、地盤改良の実施や資材不足などの影響で基本計画時よりも膨らんだ本体工事費を抑えるため、「華美な仕上げを採用せず、コストをシビアに削った」(瀧部長)。事業規模が大きいとの批判も根強かったからだ〔図3〕。

〔図3〕実施設計時点で約6億円増
〔図3〕実施設計時点で約6億円増
地盤改良の実施や建設コストの上昇、消費増税などの影響で当初よりも本体工事費が膨らんだ。反対派の「新庁舎建設を考える会」は、市の案よりも小さい延べ面積約4300m2の庁舎を23億円台で建てられると主張している(資料:垂水市)
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 実施設計は20年3月に完了。同年6月には工事の予算案を市議会が可決したものの、同年8月9日、運命は暗転する。移転計画の是非を問う住民投票で反対が賛成を上回ったのだ。尾脇雅弥市長は同日、計画を白紙にすると表明。練り上げた実施設計は、ご破算となった。